「爆撃命令」は戦争犯罪になるのか
トランプ大統領がイランの橋・発電所・海水淡水化施設を破壊すると脅迫。国際法の専門家は「民間インフラへの無差別攻撃は戦争犯罪に当たりうる」と警告する。ホルムズ海峡をめぐる攻防が問いかけるもの。
「橋という橋、発電所という発電所をすべて破壊する」——これは映画の台詞ではなく、現職の米国大統領が今週、ソーシャルメディアに投稿した言葉です。
何が起きているのか
トランプ大統領は2026年4月6日、Truth Socialへの投稿でイランに対し、「ホルムズ海峡を開けなければ、橋と発電所を全て壊す」と警告しました。海水淡水化施設や、イラン最大の石油輸出拠点であるハルク島の施設も攻撃対象に挙げました。ホワイトハウスでこれが戦争犯罪に当たるかと記者に問われると、大統領は「イランの指導者たちは先月4万5000人を殺した動物だ」と答えました。
現時点までの米軍の攻撃は、イランの核・ミサイル・海軍能力の無力化という軍事的目標に集中しており、国際法の専門家の多くはこれを「合法的な軍事行動の範囲内」と評価しています。開戦初日にテヘランの女子校が爆撃され約150人の生徒が死亡した事件も、意図的というより過失によるものとみられています。しかし今、大統領の発言は明らかに別の方向へ向かっています。
爆撃はなぜ「違法」になるのか
国際法、そして米軍の内部規則においても、合法的な軍事目標には二つの条件が求められます。「軍事行動に実質的な貢献をしていること」と「その破壊が明確な軍事的優位をもたらすこと」です。
元国務省法律顧問で現在は国際危機グループに所属するブライアン・フィヌケーン氏はこう指摘します。「ターゲットの選定が軍事的優位の観点ではなく、相手を政治的に強制するためであり、苦痛を与えることを目的としているなら、それは正当な目的とはいえない」。
米国が過去にイラクやセルビアの電力網を攻撃した際は、恒久的な損傷を避けるよう設計された特殊な黒鉛爆弾を使用しました。しかしトランプ大統領が今回示唆しているのは、そうした精密な配慮ではなく、「全ての橋、全ての発電所」という包括的な破壊です。英国レディング大学で教鞭をとる元米空軍法務官のマイケル・シュミット氏は、「無差別攻撃は武力紛争法に違反するだけでなく、関与した者が刑事訴追される可能性のある戦争犯罪に当たりうる」と述べています。
「集団的懲罰」という論理の危うさ
トランプ大統領はこれまで、イランの「国民」と「政権」を区別する姿勢を見せていました。しかし最近の発言はその境界線を曖昧にしています。イランの指導者を「動物」と呼ぶ表現は、2023年にイスラエル国防相のガラント氏がハマスを「人間の動物」と呼び、ガザへの「完全包囲」を正当化した論理と構造的に重なります。
戦略的な観点からも疑問が残ります。自国民を数万人単位で殺してでも権力を維持しようとする政権が、国民の苦しみを前に譲歩するでしょうか。民間インフラの破壊は、むしろ政権に「外敵からの攻撃」という正当化の口実を与えかねません。
なお、執行の問題も複雑です。米国もイランも国際刑事裁判所(ICC)の管轄を認めておらず、トランプ政権はICCに制裁まで科しています。ただし戦争犯罪は「普遍的管轄権」の対象であり、理論上はいかなる国も訴追を開始できます。
日本にとっての意味
ホルムズ海峡は、日本が輸入する原油の約9割が通過する生命線です。同海峡が封鎖されれば、エネルギー価格の高騰は日本の製造業、物流、そして家庭の光熱費に直接跳ね返ります。トヨタや新日本製鐵のようなエネルギー集約型の産業は特に脆弱です。
同時に、今回の事態は日本が長年依拠してきた「ルールに基づく国際秩序」の信頼性そのものを揺るがしています。その秩序を設計し、警察官として機能してきた米国が、公然とその規則を無視するとすれば、日本の安全保障の前提は根底から問い直されることになります。
記者
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