ガソリン4ドル超え――戦争が変えた日常の値段
米国のガソリン価格が3年ぶりに1ガロン4ドルを突破。ホルムズ海峡封鎖が引き起こすエネルギー危機は、日本企業や私たちの生活にどう波及するのか。
ガソリンスタンドの価格表示は、経済の「体温計」だ。
2026年3月31日、米国の全国平均ガソリン価格が1ガロン4ドルを超えた。2022年8月以来、約3年半ぶりの水準だ。わずか数週間前まで3ドル台だった価格は、トランプ政権とイランの軍事衝突が始まって以来、1ドル以上も急騰した。カリフォルニア州パサデナのスタンドに並ぶ数字は、遠い中東の出来事が、いかに素早く日常に侵食するかを静かに示している。
ホルムズ海峡という「栓」が抜けた
今回の価格急騰の直接的な引き金は、イランによるホルムズ海峡の封鎖だ。この海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ幅わずか約33キロの水路に過ぎない。しかし、ここを通過する石油は世界供給量の約5分の1に相当する。その「栓」が突然閉じられた結果、原油価格は1バレル100ドル超に跳ね上がり、ディーゼル燃料は1ガロン5.45ドル、ジェット燃料に至っては価格が2倍になった。
エネルギーショックは、ガソリン代だけにとどまらない。石油は食料生産に欠かせない肥料の原料でもある。輸送コストの上昇は食品価格に転嫁され、航空運賃も上がる。消費財のほぼすべてに、じわじわとコスト増が波及していく構造だ。
トランプ大統領は自身のSNS「Truth Social」で、ホルムズ海峡が依然封鎖されたままでも米国の関与を終結させる可能性を示唆した。しかし、海峡が閉じられている限り、エネルギー危機は誰も「オプトアウト」できない現実として世界に残り続ける。
日本への波紋――エネルギー輸入大国の宿命
日本にとって、この危機は他人事ではない。日本は国内エネルギー消費の約90%を輸入に頼っており、中東からの石油依存度は特に高い。ホルムズ海峡は、日本に届く原油の主要ルートでもある。
トヨタやホンダなどの製造業は、エネルギーコストと物流費の双方が上昇する局面に直面する。円安が続く中での原油高は、輸入コストをさらに押し上げる「ダブルパンチ」だ。航空会社のANAやJALは燃料サーチャージの引き上げを迫られ、旅行需要にも影響が出かねない。食品メーカーは肥料・輸送コストの上昇分をどこまで価格転嫁できるか、難しい判断を迫られる。
一方、東京電力をはじめとした電力各社は、火力発電の燃料費増加への対応を迫られる可能性がある。2011年の東日本大震災以降、原子力発電の稼働率が低下した日本にとって、エネルギー安全保障の問題は依然として解決されていない課題だ。
「ガソリン価格を下げる」と言い続けた大統領
ここで興味深いのは、政治的文脈だ。トランプ大統領はかねてから「自分が大統領になればガソリン価格を下げる」と繰り返し主張し、しばしば根拠の乏しい数字を持ち出してきた。だが今、その価格は政権発足以来最も高い水準に達している。
ガソリン価格が「政治的体温計」として機能するのは米国に限らない。エネルギーコストの上昇は、各国政府への不満と直結しやすい。日本でも、電気・ガス代の補助金政策が家計に直結する政治課題となってきた経緯がある。エネルギー価格は、市民が最も肌で感じる「経済の現実」なのだ。
そして同じ日、米国はもう一つの歴史的な出来事に向けて準備を進めていた。アルテミスIIミッション――53年ぶりとなる有人月探査だ。人類が月を目指す日に、地上では石油をめぐる戦争が日常を侵食している。この対比は、2026年という時代の複雑さを象徴しているように見える。
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