ホルムズ海峡が教えるトランプの誤算
イラン戦争開始から2週間、米国のガソリン価格は4ドルを超えた。「米国は湾岸石油に依存していない」というトランプ大統領の主張はなぜ間違いなのか。エネルギー市場のグローバルな連鎖を読み解く。
日本は、自国が使う石油の95%をホルムズ海峡に依存している——少なくともトランプ大統領はそう主張した。数字は誇張だとしても、この言葉には重大な含意が隠れている。「だから米国には関係ない」という論理だ。その論理が今、米国のガソリンスタンドで1ガロン4ドル超という現実によって、静かに崩壊しつつある。
何が起きたのか
2026年2月28日、トランプ大統領はイランへの軍事攻撃を開始した。「私が今夜やろうとしていることを、かつてどの大統領もやろうとしなかった」——そう宣言した言葉には、自信と確信が滲んでいた。
開戦から約2週間後の3月16日、トランプ大統領はホルムズ海峡の状況についてこう述べた。「機雷敷設船を30隻以上撃破した。彼らの能力は掌握している」。そして続けた。「米国が海峡から輸入する石油は1%未満だ。日本は95%、中国は90%を依存している。多くのヨーロッパ諸国もかなりの量を依存している。だが我々は違う」。
しかし3月31日、米国の全国平均ガソリン価格は1ガロン4ドルを突破した。パンデミック後の供給ショックが起きた2022年以来、最高水準である。世界の石油・液化天然ガス取引量の5分の1が通過するホルムズ海峡は、イランが3月初旬から妨害を開始して以降、事実上の機能停止状態にある。市場は、トランプ大統領の楽観論を信じていない。
なぜ「関係ない」が間違いなのか
トランプ大統領の主張には、一見もっともらしい地理的根拠がある。確かに米国が輸入する石油の大半はカナダとメキシコから来ており、ペルシャ湾からの直接輸入はごくわずかだ。中国がペルシャ湾から調達する石油の割合も、実際には約40%であり、「90%」という数字は誇張に過ぎる。
だが、ここに根本的な誤解がある。石油はグローバルな単一市場で取引されているのだ。
仕組みはこうだ。米国で生産された石油は、国内で消費されるだけでなく、タンカーに積まれて日本や欧州に輸出される。ホルムズ海峡が閉鎖されてアジア向けの供給が滞れば、アジアの買い手は代替供給源を求めて世界市場に殺到する。その結果、米国産原油の需要と価格も上昇する。産地がどこであれ、世界中の買い手と売り手が参加する市場では、価格は均衡点に向かって収斂する。地理的な「壁」は存在しない。
トランプ大統領はむしろ、他国に米国産の石油・ガスをもっと買うよう呼びかけている。「米国から買え。我々には十分な量がある」。この発言自体が、米国エネルギー産業がグローバル市場に深く組み込まれていることを示している。グローバル市場から恩恵を受けながら、同市場のリスクだけを遮断することはできない。
日本にとって何を意味するか
日本にとって、この問題は対岸の火事ではない。
まず直接的な影響として、ホルムズ海峡の機能停止は日本のエネルギー安全保障に直撃する。トヨタやソニー、新日本製鐵といった製造業の根幹を支えるエネルギーコストが上昇すれば、輸出競争力にも影を落とす。円安が続く局面では、ドル建てで取引される原油の価格上昇は日本の輸入コストを二重に押し上げる。
次に、より構造的な問題がある。日本は1973年の第一次石油危機以来、エネルギー安全保障の多様化を国家戦略の柱に据えてきた。中東依存を減らすべく、ロシア産LNG(現在は制裁で複雑化)、米国産LNG、再生可能エネルギーへの投資を積み重ねてきた。しかし今回の事態は、その多様化の努力が依然として不十分である可能性を示唆している。
さらに注目すべきは、今回の危機が「米国の同盟国」という立場の意味を問い直させる点だ。米国がイランと戦争状態にある中で、その戦争の副作用として日本のエネルギー供給が脅かされている。同盟関係は安全保障を提供するはずだが、同盟国の行動が新たなリスクを生み出す逆説が生じている。
異なる視点から見る
トランプ政権の側に立てば、イランの核・ミサイル開発を放置する長期的リスクと、短期的なエネルギー価格上昇を天秤にかけた判断だという論理は成り立つ。「どの大統領もやらなかった」という言葉は、問題を先送りしてきた歴代政権への批判でもある。
一方、エネルギー市場の専門家やエコノミストたちは、ホルムズ海峡リスクは米国の軍事計画立案者が数十年にわたり最も入念に検討してきた問題の一つだと指摘する。それがゆえに、歴代大統領がイラン攻撃を自制してきたという見方だ。リスクが「想定外」だったのではなく、リスクを「理解しなかった」可能性が問われている。
中国の視点も興味深い。ペルシャ湾石油への依存度が高い中国にとって、ホルムズ海峡の混乱は深刻な打撃だ。しかし同時に、米国がイランとの戦争に資源とエネルギーを費やす間、中国は地域での影響力拡大の機会を得るという逆説的な構図もある。
日本政府にとっての難題は、同盟国・米国の行動を公には批判できない立場にありながら、その行動の経済的コストを国民が負担しているという現実だ。エネルギー価格上昇は、すでに物価高に苦しむ日本の家計にさらなる圧力をかける。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
関連記事
習近平による軍上層部の粛清と政策決定の硬直化。強権支配が国家の力をどのように蝕むか、日本への影響も含めて多角的に考察します。
ホルムズ海峡封鎖がインドの料理用ガスを枯渇させ、バングラデシュの肥料工場を止め、日本の石炭政策を逆行させている。3.2億人の日常を揺るがす「遠い戦争」の波紋を読む。
NASAのアルテミスIIが4名の宇宙飛行士を月周回軌道へ送り出す。50年ぶりの有人深宇宙探査が示す、宇宙開発の新時代とは何か。日本にとっての意味を読み解く。
トランプ大統領はイランで「政権交代」が起きたと主張するが、専門家は否定する。言葉の意味をめぐる攻防が、戦争の行方を左右する。イラン情勢と中東地政学を深く読み解く。
意見
この記事についてあなたの考えを共有してください
ログインして会話に参加