「生まれた場所」が市民権を決めるのか?
トランプ政権が挑む出生地主義市民権の廃止。1942年の日系アメリカ人排斥運動と驚くほど重なるその論理を、憲法の歴史から読み解く。
あなたがアメリカの土地で生まれたとしても、それだけでは市民ではない——そんな未来が、現実になろうとしています。
2026年3月、アメリカ連邦最高裁判所は Trump v. Barbara 事件の口頭弁論を予定しています。争点は、アメリカ合衆国憲法修正第14条が保障してきた「出生地主義市民権(birthright citizenship)」の適用範囲。トランプ政権は大統領令によって、不法滞在者や一時滞在者を親に持つ子どもへの市民権付与を廃止しようとしています。しかし、この論争には80年以上前の前例があります。そしてその前例は、日系アメリカ人の歴史と深く交差しています。
「生まれた場所」を守ってきた判決
出生地主義市民権の根拠は、修正第14条の文言にあります。「アメリカ合衆国内で生まれ、またはアメリカ合衆国に帰化した、かつその管轄権に服するすべての者は、アメリカ合衆国の市民である」——この条文の解釈を最高裁が初めて明確にしたのは、1898年の United States v. Wong Kim Ark 判決でした。
この事件の主人公は、サンフランシスコで生まれた中国系移民の息子、ウォン・キム・アークです。両親は「清国皇帝の臣民」であり、中国に帰国していました。それでも最高裁は、「アメリカの土地に住所を持つ者の子どもは、人種や国籍に関わらず、アメリカ市民である」と判示しました。英国のコモンロー(慣習法)における「生地主義(jus soli)」の原則を引き継いだ判断でした。
トランプ政権はこの判決を正面から覆すとは言いません。しかし実質的な主張は、「他国に忠誠を誓う者を親に持つ子どもは、修正第14条の『管轄権に服する』要件を満たさない」というもの。これは Wong Kim Ark の論理と真っ向から対立します。
1942年、同じ論理が日系アメリカ人を標的にした
この議論は、歴史の中で一度、現実の脅威として日系アメリカ人に迫ってきました。
1942年春、カリフォルニア州の排外主義団体「ネイティブ・サンズ・オブ・ザ・ゴールデン・ウェスト」は、日系アメリカ人の市民権を剥奪するための訴訟を起こしました。サンフランシスコの選挙人名簿から約2,600人の日系アメリカ人を削除するよう求めたこの訴訟は、表向きは選挙管理の問題でしたが、その本質は「日系アメリカ人はそもそも市民ではない」という主張でした。
代理人を務めた元カリフォルニア州司法長官 ユリシーズ・S・ウェッブ は、Wong Kim Ark 判決を「最高裁がこれまで下した中で最も有害で不幸な判決の一つ」と呼びました。彼の論理はこうです。日本は1924年まで、日本人の血を引く者を世界中どこで生まれても日本国民とみなす「血統主義(jus sanguinis)」を採用していた。つまり日系アメリカ人は二重国籍者であり、アメリカへの「完全な忠誠」を持たない——ゆえに修正第14条の保護を受けない、と。
しかし連邦地裁も第9巡回区控訴裁判所も、この主張を退けました。控訴審では、ウェッブ の弁論が終わった時点で裁判官たちが相談し、相手側の反論すら聞かずに即座に原審を支持。1943年5月、最高裁も上告を棄却しました。
注目すべきは、政府自身も日系アメリカ人の市民権を否定しなかったことです。フランクリン・D・ルーズベルト 大統領の大統領令9066号によって日系人の強制収容が行われた最中でさえ、司法長官 フランシス・ビドル は「アメリカ生まれの日系人はもちろんアメリカ市民だ」と述べています。収容所で生まれた子どもたちも、正式に市民として登録されました。強制収容の推進者だった ジョン・L・デウィット 将軍でさえ、「アメリカ市民はあくまでアメリカ市民だ」と認めていました。
「忠誠」と「市民権」は別の問題である
ここで一つの問いが浮かびます。「外国に忠誠を誓う者の子どもは、本当にアメリカの『管轄権に服する』とは言えないのか?」
トランプ政権の論理は、一見もっともらしく聞こえます。不法滞在者はアメリカの法律に完全には従っていない、一時滞在者はアメリカへの長期的なコミットメントがない——だから彼らの子どもに自動的に市民権を与えるのはおかしい、という主張です。
しかし Wong Kim Ark 判決が示したのは、「管轄権」とは忠誠心の問題ではなく、物理的にアメリカの法の支配下にあるかどうか、という問題だということです。外交官やその家族のように、条約によってアメリカの法律から明示的に除外されている者を除き、アメリカの土地にいる者はすべてアメリカの法律に服します。不法滞在者も、一時滞在者も、その点では変わりません。
さらに、トランプ政権の論理を最大限に広げると、影響を受けるのは「不法移民の子ども」だけではありません。外国籍を持つ親、あるいは二重国籍の親から生まれたすべての子どもが対象になりえます。日本人の親を持つアメリカ生まれの子ども、韓国系、中国系、インド系——その範囲は広大です。
歴史が問いかけること
ネイティブ・サンズ の訴訟が認められていたとしたら、どうなっていたでしょうか。
市民権を失っていたはずの人々の中には、第二次世界大戦で最も多くの勲章を受けた部隊の一つ、第442連隊戦闘団の兵士たちが含まれます。俳優の ジョージ・タケイ、二度の内閣閣僚を務めた ノーマン・ミネタ、オリンピック金メダリストの トミー・コノ、そして収容所に留まることで違憲訴訟を維持し続けた ミツエ・エンドー——彼らは全員、アメリカで生まれたというだけで市民ではなかったことになります。
日本人読者にとって、この歴史は他人事ではありません。アメリカに暮らす日系人コミュニティ、あるいはアメリカで子どもを産む可能性のある日本人にとって、この裁判の行方は直接的な意味を持ちます。そして、移民や外国人労働者の子どもの権利をめぐる議論は、日本社会でも静かに始まっています。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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