宇宙飛行士とプリングルス缶が教えてくれること
SNLがアルテミスII宇宙飛行士を題材にしたコントを放送。笑いの裏に隠れた「科学への信頼」と「分断する社会」への静かなメッセージを読み解く。
宇宙から地球を見下ろした宇宙飛行士が、神について語ろうとした瞬間——プリングルスの缶が画面に飛び込んできた。
先週土曜日(4月11日)、アメリカの老舗コメディ番組サタデーナイトライブ(SNL)は、NASAのアルテミスII宇宙船に搭乗した宇宙飛行士たちを題材にしたスケッチを放送しました。演じたのはその日のホスト、俳優のコールマン・ドミンゴ。彼が扮したのは、実際のアルテミスIIクルーの一員であるビクター・グローバー宇宙飛行士です。
笑いの構造:崇高さと退屈の衝突
スケッチの骨格はシンプルでした。グローバー(ドミンゴ)は地球に向けて「科学がなぜ大切か」を伝える動画を撮ろうとする。しかし、クルーメイトたちが次々とその邪魔をする。ジェレミー・ハンセン(マルセロ・エルナンデス)と指揮官のリード・ワイズマン(マイキー・デイ)はプリングルス缶を奪い合い、クリスティーナ・コッホ(サラ・シャーマン)はベルクロで固定されないまま眠りに落ち、無重力の船内を漂い続けます。
グローバーはアポロ8号とアポロ13号で知られる宇宙飛行士ジム・ラベルの言葉を引用しようとします。「地球を離れるまで、私たちは自分たちが何を持っているか気づかない」——その言葉を読み上げた瞬間、口を開けて眠るコッホが画面を横切る。次にサリー・ライド(アメリカ初の女性宇宙飛行士)の言葉を読もうとすると、今度はコッホの顔にハリー・ポッターの稲妻マークが落書きされていました。
スケッチの最後、グローバーはこう言います。「みんな宇宙酔いしてきてるから手短にする。地球のみんなへ——お互いに親切にしてください。」その直後、ペニスチューブを持った二人が画面を横切りました。
なぜ今、このコントが刺さるのか
アルテミスIIは2026年4月、10日間の月周回ミッションを終えて帰還したばかりです。4人のクルーが月を周回した、1972年以来初めての有人月ミッションでした。金曜夜、SNLの放送前日、グローバーの娘を含む多くの人々がソーシャルメディアでクルーの帰還を祝う投稿をしていたと記事は伝えています。
しかしこのミッションが完了した政治的・文化的文脈は、アポロ11号の時代とは大きく異なります。現在のアメリカでは、トランプ政権が科学の理論と実践を繰り返し攻撃しており、保健福祉長官は公然と科学への軽蔑を示しています。SNLの「ウィークエンドアップデート」コーナーでは、マイケル・チェが「宇宙飛行士たちはハリウッドのサウンドステージを10日間周回して無事帰還した」と皮肉りました——月面着陸陰謀論への当てこすりです。
アポロ11号が着陸した1969年も、アメリカは深い分断の中にありました。ケネディとキング牧師の暗殺、ベトナム戦争への反発。それでも「人類の偉大な一歩」というメッセージは時代を超えて語り継がれています。SNLのスケッチは、同じ問いを2026年に投げかけています——分断と不信の時代に、科学は人々を再びつなぎとめることができるか、と。
宇宙飛行士のトイレ問題が「橋渡し」になる理由
記事の筆者は、子どもの頃にNASAについて学んだ授業が必ずトイレの話に脱線したと振り返っています。宇宙探査は人類の知性の頂点を象徴しますが、「宇宙でどうやってトイレに行くの?」という疑問は、どんな子どもにも理解できる。
この非対称性こそが、SNLのスケッチが機能した理由です。崇高なメッセージと無重力のくしゃみ、ペニスチューブのトラブルを並べることで、宇宙探査を「遠い話」から「自分たちの話」に引き寄せる。日本でも、JAXAの宇宙飛行士が宇宙食や日常生活について語る動画が高い再生数を記録するのは、同じ心理が働いているからではないでしょうか。
日本社会との接点:「権威」と「ユーモア」の距離感
ここで一つ考えてみたいのは、日本でこのようなコントが成立するかという問いです。JAXAや宇宙飛行士を題材にした風刺的なコメディは、日本のテレビではほとんど見られません。宇宙開発という「国家的プロジェクト」をユーモアで扱うことへの抵抗感は、アメリカより強いかもしれない。
一方で、古川聡宇宙飛行士や若田光一宇宙飛行士がSNSで宇宙での日常を発信するコンテンツは、日本でも広く親しまれています。「権威を笑う」ことと「人間的な側面を愛でる」ことの間には微妙な差があり、日本社会はどちらかといえば後者を選ぶ傾向があります。
SNLのスケッチが示したのは、その「人間的な側面」こそが、科学への信頼を守る最後の砦になり得るという逆説かもしれません。完璧な英雄としての宇宙飛行士ではなく、退屈して悪ふざけをする宇宙飛行士——その姿の方が、今の時代には届きやすい。
記者
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