ドージコインを機関投資家の財布へ——T. Rowe Priceの賭け
運用資産180兆円超のT. Rowe PriceがドージコインやShiba Inuを含む暗号資産ETFをSECに申請。ミームコインが機関投資家の正式なポートフォリオに入る日は近いのか。
犬のミームから生まれたコインが、87年の歴史を持つ資産運用会社のポートフォリオに並ぶ日が来るかもしれない。
T. Rowe Priceは2026年3月16日、米証券取引委員会(SEC)に対してアクティブ運用型暗号資産ETF「Price Active Crypto ETF」のS-1登録届出書の修正版を提出しました。同社の運用資産残高は1.8兆ドル(約270兆円)。世界トップ25の資産運用会社が、ビットコインやイーサリアムだけでなく、ドージコイン(DOGE)やShiba Inu(SHIB)といったいわゆる「ミームコイン」まで投資対象として明記したことは、業界に少なからぬ波紋を呼んでいます。
ファンドの中身——何が、どのように運用されるのか
今回の修正申請書によると、このETFは通常時に5〜15種類の暗号資産を保有し、量的モデルを使って銘柄を入れ替えながら「FTSE US Listed Crypto Index」を上回るパフォーマンスを目指します。投資対象として列挙されているのは、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ソラナ(SOL)、XRP、ADA、AVAX、ライトコイン(LTC)、ポルカドット(DOT)、ドージコイン(DOGE)、ヘデラ(HBAR)、ビットコインキャッシュ(BCH)、チェーンリンク(LINK)、ステラルーメン(XLM)、Shiba Inu(SHIB)、SUIの計15銘柄です。
ただし、全銘柄を同時に保有するわけではありません。ファンドマネージャーがファンダメンタルズ、バリュエーション、市場モメンタムを組み合わせた定量モデルに基づき、保有資産を能動的に入れ替える仕組みです。これは2024年に米国で相次いで承認されたスポット型ビットコインETF——特定の資産を受動的に追跡するタイプ——とは根本的に異なるアプローチです。
カストディ(資産保管)はAnchorage Digital Bank N.A.が担当します。同行は米国で初めて連邦政府から暗号資産銀行免許を取得した機関として知られており、機関投資家向けの信頼性という観点では重要な選択です。また、申請書にはステーキング(トークンをネットワークに預けて報酬を得る仕組み)への参加可能性も盛り込まれており、規制当局の指針や税務処理が明確になり次第、導入を検討するとしています。
なぜ今なのか——規制環境の変化という背景
このタイミングは偶然ではありません。トランプ政権下でSECの姿勢が大きく転換し、暗号資産に対する規制当局の態度は「取り締まり」から「枠組みづくり」へと軸足を移しつつあります。2024年1月のスポット型ビットコインETF承認、同年5月のスポット型イーサリアムETF承認と続いた流れの中で、資産運用会社各社は次の一手を模索してきました。
T. Rowe Priceが最初の申請書を提出したのは2025年10月。今回の修正申請はその具体化であり、承認に向けた手続きを着実に進めていることを示しています。同社以外にも複数の大手金融機関が類似の商品を申請中であり、アクティブ運用型の暗号資産ETFは次の競争領域として注目されています。
日本の投資家にとっての意味
日本市場への直接的な影響を考えると、いくつかの視点が浮かびます。
まず、日本の個人投資家への間接的な影響です。日本では暗号資産は「雑所得」として最高55%の税率が課せられ、ETFのような税効率の高いラッパーで暗号資産に投資する手段は限られています。米国でアクティブ型暗号資産ETFが普及すれば、日本の規制当局や金融機関にも同様の商品開発を求める声が高まる可能性があります。
次に、機関投資家の動向です。野村証券や大和証券などの大手証券会社、あるいはGPIFのような年金基金が暗号資産をポートフォリオに組み込む議論は、今のところ日本では表舞台に出てきていません。しかし、世界最大級の資産運用会社がミームコインを含む暗号資産ETFを正式に申請したという事実は、「機関投資家にとって暗号資産は非常識ではない」という認識を広げる可能性があります。
一方で懐疑的な見方も根強くあります。ドージコインやShiba Inuは本質的な用途やキャッシュフローを持たないという批判は根強く、これらをビットコインと同列に扱うことへの違和感を示す声も業界内にあります。アクティブ運用のコスト(信託報酬)がパッシブ型より高くなる傾向もあり、長期的なパフォーマンスが指数に劣後するリスクも無視できません。
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