AIへの反感が米国で拡大——IPOと巨大投資に暗雲
米国でAIへの否定的感情が高まっている。OpenAIのCEOへの襲撃事件、データセンター反対運動、世論調査での懸念増加が重なり、OpenAIやAnthropicのIPO計画や大手テック企業の巨額投資に影響を与える可能性がある。
57%。米国の有権者の過半数がAIのリスクはメリットを上回ると答えた——これは単なる数字ではなく、シリコンバレーの未来設計図に突き刺さる警告かもしれません。
何が起きているのか
2026年4月初旬、OpenAI CEO サム・アルトマン氏のサンフランシスコの自宅前に、火炎瓶が投げつけられました。サンフランシスコ地方検察官によると、容疑者はテキサス州出身の20歳、ダニエル・モレノ=ガマで、AI技術への憎悪が動機とされています。容疑者は殺人未遂などの罪に問われており、OpenAI本社を焼き払うと脅迫したとも伝えられています。
この事件は孤立したものではありません。背景には、米国社会全体でAIへの不信感が静かに、しかし着実に広がっているという現実があります。
3月に実施されたNBCニュースの調査では、57%の登録有権者が「AIのリスクはメリットを上回る」と回答。クインニピアック大学の調査でも55%が「AIは日常生活に害をもたらす」と予測しています。ピュー研究所の調査でも、AIの利用拡大について「興奮よりも懸念が大きい」と答えた米国人が多数派となっています。
アルトマン氏は週末にこの攻撃に言及し、「AIへの大きな不安の時代」を認めつつも、「技術の進歩は家族の未来を信じられないほど豊かにできる」と述べました。一方で、雇用喪失への不安を和らげるための政策提言——公共富裕基金、週4日労働制、自動化への課税——も打ち出しています。
データセンターという「見えない戦場」
世論の反発はオンラインの議論にとどまりません。AIを動かすインフラ、すなわちデータセンターへの物理的な反対運動も激化しています。
Data Center Watchの報告によれば、2025年だけで少なくとも1,560億ドル相当のデータセンタープロジェクトが地域住民の反対や訴訟によって中止または延期されました。米国東部のメイン州は全州規模でのデータセンター禁止法案を可決し、知事の署名待ちとなっています。ミズーリ州の郊外では、データセンター建設を支持した市議会議員が住民投票で落選するという事態も起きています。
アマゾン、グーグル、マイクロソフト、メタの「ハイパースケーラー」と呼ばれる巨大テック企業は、今年だけで合計約7,000億ドルをデータセンター建設に投じる計画を立てています。AIモデルの「賢さ」は計算資源の量に比例するとされており、この投資は各社の競争力の根幹です。しかし地域住民にとっては、大量の電力消費、騒音、環境負荷という形で「迷惑施設」として映ることも少なくありません。
IPOへの影響——「みんなが欲しがる株」は本当か
OpenAIとAnthropicはいずれも株式公開(IPO)を視野に入れています。OpenAIのCFO サラ・フレア氏は「スペースXのように、誰もがChatGPTの株を持ちたいと思うはず」と語り、個人投資家向けの株式割り当ても検討中と述べました。
しかし、ここに矛盾が生じます。AIへの否定的な世論が広がる中で、一般投資家がAI企業の株を「夢の銘柄」として購入するかどうかは、もはや自明ではありません。またOpenAIの企業価値は、データセンターの大規模展開を「戦略的優位性」と位置づけることで支えられていますが、その展開そのものが各地で阻まれています。
Anthropic CEOのダリオ・アモデイ氏は以前から「AIによる大規模な雇用破壊のリスク」を公言しており、業界内でも認識が割れています。
日本社会への視座
この問題は、日本にとって他人事ではありません。
日本は少子高齢化による深刻な労働力不足を抱えており、AIや自動化への期待は米国とは異なるニュアンスを持ちます。政府も企業もAI導入を「労働力不足の解決策」として積極的に推進してきました。トヨタやソニー、NTTといった大企業もAI投資を加速させています。
しかし米国での反感の高まりは、日本にも示唆を与えます。技術の恩恵が社会全体に均等に分配されなければ、反発は起きうる——その教訓は、AIの「使われ方」をめぐる社会的合意形成の重要性を改めて浮かび上がらせます。また、日本国内でもデータセンターの建設が各地で進んでいますが、電力消費や地域環境への影響については議論が十分とは言えません。
OpenAIやAnthropicのIPOが実現した場合、日本の機関投資家や個人投資家も注目することになるでしょう。その際、企業の財務指標だけでなく、「社会的信頼」という無形の資産がどれほど株価に織り込まれるかが、重要な判断軸になるかもしれません。
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