米軍がビットコインノードを運用——暗号資産は「国家権力の道具」になるか
米インド太平洋軍司令官が議会で証言。米軍がビットコインネットワーク上でノードを運用中と初めて公式に認めた。中国との戦略的競争における暗号資産の役割とは。
政府の支配に抵抗するよう設計されたビットコインのネットワークに、今、米軍が直接参加している。
2026年4月23日、サミュエル・パパロ米海軍大将(インド太平洋軍司令官)が米議会の公聴会で明らかにした事実は、暗号資産の世界と国家安全保障の交差点に新たな問いを投げかけています。「我々は現在、ビットコインネットワーク上にノードを持っている」——四つ星将官がこう証言したのは、歴史上初めてのことです。
何が起きたのか:議会証言の中身
パパロ司令官は、まず4月22日に上院軍事委員会でビットコインが米国の「パワープロジェクション(力の投射)」と国家安全保障において「驚くべき可能性」を持つと述べました。翌日の下院軍事委員会では、さらに踏み込んだ発言をしました。
「我々はマイニングをしているわけではありません。ネットワークの監視と、ビットコインプロトコルを使ったネットワークの保護・防衛に関する複数の運用テストを行っています」とパパロ司令官は説明しました。
ビットコインノードとは、ブロックチェーンの全履歴を保存し、ネットワークのルールを執行するコンピュータのことです。マイニングとは異なり、報酬は得られず、特殊なハードウェアも不要です。ノードを運用することで、第三者を信頼することなく、独立してネットワークの状態を検証できます。現在、世界には1万5,000〜2万の公開フルノードが存在すると推定されており、ファイアウォール内で運用されているものを含めると実数はさらに多いとみられています。
インド太平洋軍(INDOPACOM)は、インド太平洋地域における米軍の作戦を統括する司令部であり、中国との戦略的競争の最前線に位置しています。その司令官が、分散型プロトコルへの軍の直接参加を公言したことの意味は、単なる技術的な話を超えています。
なぜ今なのか:中国との「デジタル覇権」競争
この証言が飛び出したタイミングは偶然ではありません。米中関係が経済・軍事・技術の全領域で緊張を高める中、ワシントンでは暗号資産を単なる投機資産としてではなく、地政学的ツールとして再評価する動きが加速しています。
背景には、中国が2021年に国内でのビットコイン取引と採掘を全面禁止した一方、デジタル人民元(e-CNY)の国際展開を着々と進めてきた事実があります。米国から見れば、ビットコインのような検閲耐性を持つ分散型ネットワークは、中国が主導するデジタル金融インフラへの対抗軸になり得ます。
加えて、トランプ政権が2025年に戦略的ビットコイン備蓄の設立を表明して以来、米国の政策立案者の間でビットコインを国家資産として位置づける議論が本格化しています。今回の軍による運用テストは、その流れの延長線上にあります。
複数の視点:誰が何を考えているか
暗号資産コミュニティの反応は複雑です。ビットコインの哲学的基盤は「いかなる政府や組織も支配できないネットワーク」にあります。数万のノードのうちの一つを米軍が運用しても、ネットワークの独立性が損なわれることはありません。しかし、「国家安全保障ツール」としての位置づけが強まることで、ビットコインの脱国家的な性質が変質するのではないかという懸念もあります。
国家安全保障の専門家にとっては、むしろ歓迎すべき動きかもしれません。分散型プロトコルの特性——検閲耐性、改ざん困難性、国境を越えた送金能力——は、軍事・諜報活動における通信や資産移転のセキュリティ強化に応用できる可能性があります。
日本への影響という観点では、日本は主要7カ国(G7)の中でも暗号資産規制の整備が比較的進んだ国の一つです。金融庁は暗号資産交換業者への登録制を維持し、三菱UFJやSBIなどの金融機関もデジタル資産分野への参入を進めています。米軍がビットコインを安全保障の文脈で公式に位置づけることは、日本の金融・防衛政策にも間接的な影響を与える可能性があります。特に、日米同盟の枠組みの中で、デジタル資産を巡るサイバーセキュリティ協力の議論が深まることも考えられます。
一方、中国の視点からすれば、米軍のビットコインネットワーク参加は、自国が禁止した技術を対中競争の道具として米国が活用しようとしているというシグナルに映るでしょう。これがデジタル通貨を巡る米中の競争をさらに激化させる可能性もあります。
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