メキシコ麻薬王「エル・メンチョ」の死が引き起こした暴力の連鎖
メキシコの麻薬王エル・メンチョの死後、全国で暴動が発生。9,500人の軍が展開される中、観光地プエルト・バジャルタも混乱に
観光客たちがホテルのプールサイドから軍用ヘリコプターを見上げている。メキシコの人気リゾート地プエルト・バジャルタで日曜日に撮影された映像は、平和な休暇がいかに瞬時に戦場と化すかを物語っている。建物から立ち上る煙、街路に放置され燃え続けるバス。これらの光景は、一人の男の死が国全体を混乱に陥れた現実を映し出していた。
その男とはネメシオ・オセゲラ・セルバンテス、通称「エル・メンチョ」。メキシコで最も恐れられた麻薬組織ハリスコ新世代カルテル(CJNG)のリーダーで、米国が1,500万ドルの懸賞金をかけていた最重要指名手配犯だった。彼の日曜日の死は、20州にわたる暴動を引き起こし、メキシコ政府は9,500人の軍隊を展開する事態となった。
一瞬で変わった力のバランス
エル・メンチョの捕獲作戦は、恋人との密会を追跡することから始まった。ハリスコ州のタパルパという小さな町で、特殊部隊との銃撃戦の末に重傷を負った彼は、メキシコシティへの搬送中に死亡した。作戦では彼の護衛6人が死亡し、軍側も3人が負傷した。
死のニュースが広まると、CJNGのメンバーたちは即座に報復行動を開始した。道路に釘やスパイクを撒いて封鎖し、バスや車両を奪って炎上させ、銀行や商店を襲撃した。ハリスコ州だけで国家警備隊員25人が死亡し、組織側も30人が殺害されるという激しい衝突となった。
クラウディア・シェインバウム大統領は軍の作戦を称賛し、「平静があり、政府があり、軍があり、多くの協調がある」と述べた。しかし月曜日の朝までに道路封鎖は解除されたものの、この暴力の連鎖が示すものは単純な治安問題を超えている。
観光産業への深刻な打撃
特に注目すべきは、今回の暴動がプエルト・バジャルタのような主要観光地にも及んだことだ。日本からも多くの観光客が訪れるこの地域で、ホテルの上空を軍用ヘリが飛び交い、街中で建物が燃える光景は、メキシコ観光業界にとって深刻な問題を提起している。
観光業はメキシコのGDPの8.7%を占める重要産業だ。カンクンやプエルト・バジャルタなどのリゾート地は、これまで比較的治安が保たれてきたが、今回の事件は麻薬カルテルの影響力がいかに広範囲に及んでいるかを示している。
BBCが検証した映像では、グアダラハラ近郊のサン・イシドロで国家警備隊とカルテルメンバーの間で激しい銃撃戦が繰り広げられ、少なくとも4人の遺体が車の近くに倒れている様子が映っている。レストランの監視カメラには、カルテルの車両が国家警備隊のトラックに突っ込みながら銃撃する場面も記録されていた。
国際協力の複雑さ
メキシコ国防省は、今回の作戦が陸軍、国家警備隊、空軍による合同作戦だったと発表し、米国からの「補完的情報」がエル・メンチョの捕獲に役立ったと認めた。しかし同時に、米軍部隊は作戦に参加していないことも強調している。
この微妙な表現は、麻薬戦争における米墨協力の複雑さを物語っている。トランプ前大統領時代から続く両国間の緊張、そして麻薬問題をめぐる主権の問題が、今回の作戦発表にも影響を与えているのだ。
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