欧州が「デジタル主権」に走る理由:米国依存からの脱却は可能か
欧州各国が米国テック企業への依存を減らそうとする「デジタル主権」戦略。エストニアが「国家生存の問題」と断言する背景と、日本への示唆を探る。
欧州のクラウド市場で、米国企業が85%のシェアを握っている。この数字が今、欧州諸国を「デジタル主権」への道へと駆り立てている。
エストニアのデジタル担当大臣リーサ・パコスタ氏は「これはもはやIT政策の問題ではなく、国家生存の問題だ」と断言した。ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、バルト三国を含む欧州東部では安全保障への脅威が高まっている。
米国依存の現実
欧州のデジタルインフラは米国企業に深く依存している。Amazon、Microsoft、Googleが欧州クラウド市場の70%以上を支配し、企業向けソフトウェア市場でも米国企業が59%以上を占める。
問題は単なる市場シェアにとどまらない。2018年のクラウド法により、米国の法執行機関は、データがどこに保存されていようと、米国企業からユーザーデータの提供を求めることができる。これが欧州各国の懸念を深めている。
フランスは今年1月、政府開発のビデオ会議ツール「Visio」を発表し、2027年までにMicrosoft TeamsやZoomに代わって全政府機関で使用すると発表した。デンマークも6月にMicrosoft Officeの代替となるオープンソースソフトウェアの試験運用を開始している。
各国の戦略と現実のギャップ
ドイツ政府の報道官は「デジタル主権の強化が現政府の中心目標の一つ」だと述べ、近年の地政学的発展を理由に挙げた。ベルギー連邦政府もデジタル領域での依存関係を見直し、最も機密性の高いデータの保存を含む「ベルギー・クラウド戦略」を検討している。
調査会社Gartnerによると、欧州諸国における主権クラウドインフラサービスへの支出は、2025年から2027年にかけて3倍以上の230億ドルに達する見込みだ。
しかし現実は厳しい。Synergy Research Groupの主席アナリストジョン・ディンズデール氏は「主要プレーヤーになるには、研究、サービス開発、技術インフラ、顧客サポートに継続的に大規模投資が必要」だと指摘し、「欧州のクラウドプロバイダーが市場シェアの傾向を有意に逆転させることは非常に困難」だと述べている。
日本への示唆
欧州の動きは日本にとっても他人事ではない。日本もまた、クラウドサービスやソフトウェアで米国企業への依存度が高い。トヨタ、ソニー、任天堂といった日本企業も、グローバル展開において米国のクラウドサービスを広く活用している。
特に注目すべきは、欧州各国が「オープンソース優先」戦略を採用していることだ。これは、外部ベンダーの政策変更や国際的な接続が断たれた場合でも、自国でシステムを維持できるようにするためだ。
日本の場合、高齢化社会や労働力不足という独自の課題を抱える中で、デジタル化は不可欠だ。しかし、そのデジタル化が外国企業への依存を深めることになれば、長期的な安全保障リスクとなりかねない。
完全な脱却は現実的か
興味深いことに、デジタル主権を推進する欧州各国も、米国企業との関係を完全に断つつもりはない。エストニアのパコスタ大臣も「米国のハイパースケーラーは欧州クラウドエコシステムにおける重要で信頼できるパートナー」だと認めている。
問題は依存度の調整だ。重要なシステムやデータについては自国や同盟国の技術を使い、一般的な用途では引き続き米国企業のサービスを活用する。このバランスをどう取るかが、各国の課題となっている。
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