イランの「核心」を失った中東——次の一手は誰が握るのか
イスラエルがイランの安全保障責任者ラリジャニ氏を殺害したと発表。欧州は「欧州の戦争ではない」と距離を置き、ドイツは軍事解決を否定。中東情勢の新局面を多角的に読む。
戦争は、一人の人間を消すことで「次の段階」に進むことがある。
2026年3月17日、イスラエルは声明を発表した。イランの安全保障責任者、アリー・ラリジャニ氏が殺害されたというのだ。同日、レバノンからのロケット攻撃によりイスラエル国内で建物が炎上する映像が世界に流れ、中東の緊張は新たな段階へと踏み込んだ。
「標的殺害」が意味するもの
ラリジャニ氏はイランの安全保障・外交の中枢を担ってきた人物だ。核交渉の経験も持ち、イランの対外戦略において「実務的な顔」として機能してきた。その人物を失ったことは、単なる人的損失にとどまらない。イランの意思決定構造そのものに揺さぶりをかける行為だ。
イスラエルのこうした「標的殺害」戦略は今に始まったことではない。2020年にはイランの核科学者ファフリザデ氏が暗殺され、2024年にはハマス最高指導者ハニヤ氏がテヘランで殺害された。いずれもイランの「報復」を引き出しながら、全面戦争には至らないという綱渡りの均衡の上に成立してきた。しかし今回、その均衡が続くかどうかは誰にも分からない。
欧州は「観客席」を選んだ
注目すべきは、欧州の反応だ。EUは「イランは欧州の戦争ではない」と明言し、ドイツのメルツ首相は「イランに対する軍事的解決策はない」と述べた。これは単なる外交的慎重さではなく、欧州が中東紛争への直接関与を明確に拒否するシグナルとも読める。
ウクライナ支援で疲弊し、国内でポピュリズムが台頭する欧州にとって、もう一つの「戦争」に巻き込まれることは政治的に耐えがたい。その本音が、今回の発言に滲み出ている。しかし欧州が距離を置けば置くほど、アメリカとイスラエルの二国間構造が中東の「ルール」を決めていくことになる。
日本にとっての「静かなリスク」
日本のメディアでの扱いは小さいかもしれないが、この問題は日本と無縁ではない。
日本はエネルギーの約90%以上を中東に依存している。ホルムズ海峡が封鎖されれば、原油価格は即座に跳ね上がり、電力・物流・製造業すべてに波及する。トヨタやソニーのサプライチェーンも、エネルギーコストの急騰から無縁ではいられない。
さらに日本は、イランと独自の外交チャンネルを持つ数少ない西側諸国の一つだ。過去にも日本の首相がテヘランを訪問し、仲介役を担おうとした経緯がある。今この瞬間、日本外務省の担当者たちは何を考えているだろうか。
「反戦」の声は届くのか
興味深いのは、アメリカ国内からも異論が出ていることだ。元海兵隊員で反戦活動家に転じた人物が「トランプはイスラエルとイランについて間違っている」と公言している。かつて銃を持って戦場に立った人間が、今度は言葉で戦争に抗う。この逆説は、アメリカ社会の分断と葛藤を象徴している。
一方、パキスタンの首都では、キリスト教徒のコミュニティが住居から強制退去させられているという報道も届いている。中東の火種が燃え広がる中、世界各地で宗教的マイノリティへの圧力が高まっている現実は、「戦争」という言葉では括れない複合的な危機を示している。
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