ヨルダンが軍事準備を強化、イスラエルの西岸併合で「生存戦略」に転換
イスラエルの西岸地区併合措置を受け、ヨルダンが35年ぶりに徴兵制を復活。「代替祖国論」の現実化に危機感を強める王国の戦略転換を分析
35年間停止していた徴兵制度を突然復活させたヨルダン。その背景には、隣国イスラエルの動きに対する深刻な危機感がある。
今月、イスラエル内閣が占領下の西岸地区の広大な土地を「国有地」として司法省に登録する措置を承認した。この決定をイスラエルのスモトリッチ財務相は「入植革命」と表現したが、ヨルダンにとっては全く異なる意味を持つ。それは長年「陰謀論」とされてきた「代替祖国論」—ヨルダンがパレスチナ国家になるべきだという構想—の現実化を意味するからだ。
「静かな移住」への恐怖
ヨルダンが最も恐れるのは、軍事侵攻ではなく「ソフトな移住」だ。西岸地区での生活を耐え難いものにし、パレスチナ人を徐々にヨルダンへ追いやる戦略である。
今回のイスラエルの措置は、1世紀間パレスチナ人の土地所有権を保護してきたヨルダンとオスマン帝国時代の土地登記を抹消することを意味する。これにより、大規模な入植地拡張の法的道筋が開かれる。
「移住はもはや脅威ではなく、実行段階に移っている」と、ヨルダンの元副首相マムドゥーフ・アッバーディ氏は警告する。「西岸の後、敵は東岸、つまりヨルダンに向かうだろう」
特に象徴的なのは、イスラエル軍に新設された「ギレアデ旅団」の存在だ。ギレアデとは首都アンマン近郊の山岳地帯を指す地名で、アッバーディ氏はこれを「ナイルからユーフラテスまで」というイスラエルの戦略的実践の表れと分析する。
「第二の軍隊」としての部族社会
外交的選択肢が狭まる中、ヨルダンの軍事専門家らは実力行使の可能性を議論し始めている。
退役少将マムーン・アブ・ヌワール氏は、イスラエルの行動を「宣戦布告なき戦争」と位置づけ、移住圧力が続けば「ヨルダン渓谷を軍事封鎖区域に宣言する」必要があると主張する。
軍事力の格差を認めつつも、同氏はヨルダンの独特な社会構造に自信を示す。「ヨルダンの内陸部には部族や氏族がいる。これは第二の軍隊だ。すべての村、すべての県がヨルダンの防衛線となる」
実際、ヨルダンは今年2月、35年ぶりに義務兵役制度「国旗奉仕」を復活させた。軍当局は「複雑な地域情勢の中で現代戦に対応する戦闘能力の向上」を目的としている。
アメリカの保証の崩壊
ヨルダンの不安を増大させているのは、最古の同盟国アメリカからの見捨てられ感だ。
政治研究センター所長オライブ・ランタウィ氏は、「ワシントンへの賭けは失敗した」と断言する。トランプ前政権下で始まった「パラダイム転換」により、アメリカの地域戦略の軸足がアンマンやカイロから湾岸諸国へ移ったという。
「二つの同盟国から選択を迫られた時、ワシントンは躊躇なくイスラエルを選ぶ」とランタウィ氏は指摘する。ヨルダンは「援助の炎と実存的脅威の炎」の間で板挟みになっている状況だ。
外交戦略の見直し
この孤立状況を受け、アンマンでは同盟関係の根本的見直しを求める声が高まっている。
ランタウィ氏は、ヨルダンが弱体化したパレスチナ自治政府との独占的関係に固執し、ハマスなど抵抗勢力を避けてきたことを「戦略的誤算」と批判する。エジプト、カタール、トルコがハマスとの関係を維持することで影響力を保持したのと対照的だ。
「ヨルダンは自発的に、あるいは誤算により、この役割を放棄した」と同氏は分析する。国内のムスリム同胞団への警戒が背景にあるものの、最も必要な時期に地域的影響力を失う結果となった。
総動員体制への転換
ヨルダンのエリート層の間では、「外交的警告」の時代は終わったという認識が広がっている。
アッバーディ氏は全国民の兵役義務化を提唱し、「ヨルダンのすべての人が武器を扱えるようになるべきだ」と主張する。さらに文化的動員も重要だとし、「敵の言語を知る者はその悪から身を守れる」として子供たちへのヘブライ語教育も提案している。
国境管理についても厳格化を求め、「緩慢で偽装された移住」が始まれば「橋を即座に、躊躇なく封鎖すべきだ」と訴える。
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