ホルムズ海峡が閉じたまま——日本の「石油の時計」は何日分残っているか
米イラン停戦後も不透明なホルムズ海峡の通行。日本政府は追加20日分の石油備蓄放出を検討中。中東依存9割超の資源小国・日本が直面するエネルギー安全保障の現実を読み解く。
石油タンカーが通れない海峡がある。その海峡を通らなければ、日本に届く原油の9割以上が止まる——。これは仮定の話ではなく、2026年春の現実です。
「停戦」の後も、海峡は開かない
4月8日(火)、米国とイランは条件付きの2週間停戦に合意しました。トランプ大統領が自ら設定した「ホルムズ海峡を再開しなければイランの重要インフラを破壊する」という期限の直前でした。しかし停戦が成立したからといって、海峡が即座に「平時」に戻るわけではありません。
イスラエルはレバノンでイラン系武装組織ヒズボラへの攻撃を継続しており、地域の緊張は依然として高い水準にあります。イランの国営放送は停戦後の「承認された航路」を発表しましたが、通過できる船舶は1日最大15隻程度とされており、停戦前の水準には程遠い状況です。
こうした状況を受け、日本の経済産業省は5月に追加で20日分の石油備蓄を放出する方向で検討していることが、関係者への取材で明らかになりました。
ここまでの経緯——「過去最大規模」の放出がすでに始まっている
事態が動いたのは2月28日です。米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始し、ホルムズ海峡が事実上閉鎖状態に陥りました。これを受けて日本政府は3月中旬から、過去最大規模の石油備蓄放出に踏み切っています。
現在の計画では、国家備蓄・民間備蓄・湾岸産油国が保有する備蓄を合わせて合計約8,000万バレル、日本の消費量に換算して約50日分を市場に供給する予定です。このうち国家備蓄30日分は、全国11か所の備蓄基地から4月末までに放出されます。
国際エネルギー機関(IEA)も同じ3月中旬から加盟32か国による協調放出を開始しており、その規模は合計4億バレル超。これは2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻以来、初めての国際協調放出です。高市早苗首相は先月、IEAのファティ・ビロル事務局長と東京で会談し、追加の協調放出に支持を表明しています。
なぜ日本はこれほど脆弱なのか
日本はエネルギー資源のほぼすべてを輸入に頼っており、原油輸入の90%超が中東からです。ホルムズ海峡はその大動脈です。湾岸戦争(1991年)、イラク戦争(2003年)、そして今回と、日本はたびたびこの「一本道」の脆弱性に直面してきました。
一方で、備蓄放出には批判的な見方もあります。「戦略備蓄は短期的な価格調整のためにあるのではなく、本当の危機に備えるものだ。今使えば、より深刻な事態に対応できなくなる」——そうした声は国内外のエネルギー専門家の間にあります。市場メカニズムに任せれば燃料価格は上昇するが、それ自体が需要抑制と代替エネルギーへの転換を促すという論理です。
しかし日本の立場はやや異なります。島国であり、パイプラインによる代替調達ルートを持たない日本にとって、価格上昇は単なる「市場のシグナル」ではなく、物流・製造・農業・漁業にわたる産業全体の連鎖的打撃を意味します。トヨタや新日本製鐵のようなエネルギー集約型産業が集積する日本では、原油供給の不安定化は即座に生産ラインの停止リスクに直結します。
各ステークホルダーの視点
日本政府にとっては、備蓄放出は「エネルギー安全保障」と「国民生活の安定」を同時に守るための手段です。しかし放出できる量には上限があり、事態が長期化すれば選択肢は狭まります。
産業界は安定供給を歓迎しつつも、中長期的な脱中東依存の加速を求める声が高まっています。再生可能エネルギーへの投資拡大や、オーストラリア・カナダなど中東以外からのLNG調達多様化がその方向性です。
一般市民の視点では、ガソリン価格や電気料金への影響が最も身近な問題です。物価高が続く中でのエネルギーコスト上昇は、家計への直撃となります。
国際社会から見れば、今回のIEA協調放出は、エネルギー安全保障が「一国の問題」ではなく「同盟国間の集団的課題」であることを改めて示しています。
記者
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