原油120ドル時代が来るのか——ホルムズ海峡という世界の急所
イランがホルムズ海峡の通過に課金か。中東の緊張が原油価格を押し上げ、日本経済に直撃する可能性がある。エネルギー安全保障の観点から、今何が起きているのかを読み解く。
日本が輸入する原油の約90%は、ペルシャ湾の出口にある細長い水路を通っています。幅わずか33キロメートル——ホルムズ海峡です。そこに今、通行料を課すという話が浮上しています。
「課金」という前例のない主張
湾岸協力会議(GCC)の事務局長は先ごろ、イランがホルムズ海峡を通過する船舶に対して料金を徴収しようとしていると発言しました。国際法上、海峡の「無害通航権」は確立された原則であり、一国がこれを制限したり課金したりすることは許されないとされています。にもかかわらず、こうした主張が出てくること自体、中東の緊張がいかに高まっているかを示しています。
この発言の背景にあるのは、イスラエルとイランの間で続く軍事的な応酬です。イランのミサイル攻撃がイスラエルに着弾し、車が横転する映像が世界に流れました。レバノンでは10代のボランティア救急隊員がイスラエルの空爆で命を落としました。戦場は拡大し、緊張の連鎖は止まる気配を見せません。
こうした状況を受け、あるアナリストは「戦争リスクが高まれば、原油価格は1バレル120ドルに達する可能性がある」と警告しています。現在の価格水準から見れば、30〜40%以上の上昇です。ドイツの閣僚はすでに「イランとの戦争は経済的な大惨事になる」と明言しています。
なぜ今、この海峡が焦点になるのか
ホルムズ海峡は単なる地理的な水路ではありません。世界の石油輸送量の約20%が通過するこの海峡は、グローバル経済の「血管」とも言える存在です。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、イラク——中東の主要産油国はすべて、この海峡を通じて原油を輸出しています。
イランはこれまでも、外交的圧力が高まるたびに「海峡封鎖」をちらつかせてきました。しかし今回は状況が異なります。イスラエルとの直接的な軍事衝突が現実のものとなり、アメリカの中東政策も流動的な中で、イランが「経済的なカード」として海峡を使う誘因は、かつてなく高まっています。
日本への直撃——エネルギー依存の現実
日本にとって、この問題は対岸の火事ではありません。トヨタやソニーをはじめとする日本の製造業は、安定したエネルギー供給を前提に動いています。原油価格が120ドルを超えれば、輸送コスト、電力コスト、素材コストがすべて上昇し、企業収益を圧迫します。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、日本はエネルギー調達の多様化を進めてきました。しかし、中東依存からの脱却は一朝一夕には進まず、ホルムズ海峡の安定は依然として日本経済の根幹を支える条件です。円安が続く現在、ドル建てで取引される原油の価格上昇は、家計へのダメージも二重に大きくなります。
政府は緊急時の石油備蓄として約90日分を確保しているとされていますが、紛争が長期化した場合、それで十分かどうかは未知数です。
各国の思惑が交錯する構図
アメリカはホルムズ海峡の安全航行を守るため、中東に海軍を展開してきた歴史があります。しかし現在のワシントンの政治状況は複雑で、中東への深い関与を望まない声も強くなっています。
中国もまた、ホルムズ海峡を通じて大量の原油を輸入しており、封鎖は中国経済にも打撃を与えます。皮肉なことに、イランと戦略的パートナーシップを結ぶ中国が、海峡の安定という点ではアメリカや日本と利害を共有するという構図が生まれています。
一方、GCC諸国(サウジアラビアやUAEなど)にとって、イランの「課金」主張は自国の輸出ルートへの直接的な脅威です。彼らがこの問題を国際社会に訴えるのは、単なる外交的メッセージ以上の意味を持ちます。
記者
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