イラン戦争が露わにした「依存」の代償
イラン戦争の長期化で韓国のサプライチェーンが揺らいでいる。ナフサ不足、ヘリウム供給危機、燃料価格高騰——この危機は日本にとっても他人事ではない。
あなたが今日使ったペットボトル、点滴バッグ、スマートフォンの中のチップ——それらはすべて、中東の一本のパイプラインとつながっている。
韓国で今、何が起きているか
イランをめぐる戦争が長期化の様相を呈するなか、韓国の産業と日常生活が静かに揺らぎ始めている。ソウルの平均ガソリン価格は2026年3月29日時点で1リットル1,900ウォンを超え、政府は第2次価格統制を実施中だ。クー・ユンチョル副首相は、国際原油価格が1バレル120〜130ドルに達した場合、現在は公共機関に限定している車両使用制限を民間にも拡大する可能性に言及した。
エネルギー価格の問題にとどまらない。韓国が直面している危機の本質は、「何を、どこから調達しているか」という構造的な脆弱性だ。プラスチックや合成繊維の原料となるナフサの供給が戦争勃発以来約30%減少した。韓国はナフサ需要の約50%を輸入に頼り、そのうち約60%が中東産だ。食品包装材、PETボトル、ゴミ袋、さらには点滴バッグや医療用プラスチックまで、生産への影響が広がりつつある。
半導体業界も緊張している。カタールの液化天然ガス施設へのストライキが、チップ製造に不可欠な冷却材であるヘリウムの供給に影響を与えている。韓国企業は数カ月分の備蓄を確保しているものの、カタールは世界のヘリウム供給の約30%を占めており、不確実性は高まるばかりだ。肥料生産コストの上昇を通じて食品価格にも波及しかねない。
これは日本にとって「対岸の火事」か
韓国の苦境を眺めながら、日本の読者は安堵するだろうか。しかし数字を重ねると、その安堵は根拠を失う。
日本もまた、中東への資源依存という同じ構造の上に立っている。日本の原油輸入に占める中東の割合は依然として約90%前後で推移しており、韓国以上に集中している。ナフサについても、石油化学産業の基幹原料として日本企業が大量に調達している。東レや帝人などの素材メーカー、あるいは自動車部品や医療機器メーカーへの影響は、時間差を置いて顕在化する可能性がある。
ヘリウム問題は半導体製造大国である日本にとって特に注視すべき点だ。東京エレクトロンや信越化学など、半導体製造装置・素材の大手企業は、ヘリウムを大量に消費する工程に深く関わっている。韓国企業が数カ月分の備蓄で「時間を買っている」状況は、日本企業も同様だろう。問題は、その時間をどう使うかだ。
「備え」とは何か——政府と企業の役割
韓国政府は今、3つの課題に同時に取り組もうとしている。需要の精密な把握、代替調達先の開拓、そして市民へのパニックを防ぐための透明な情報提供だ。車両使用制限の民間への拡大は、生活や生業に車を必要とする人々への配慮なしには実施できない。政策の細部に、社会の公平性が問われる。
この問題は、日本の文脈でも重なる。高齢化が進む地方では、車は生活インフラそのものだ。燃料価格の高騰や使用制限は、都市部の住民と地方の住民に非対称な影響を与える。エネルギー安全保障の議論が、しばしば「平均値」で語られることの危うさがここにある。
一方で、危機はサプライチェーン多様化の加速を促す契機にもなりうる。豪州やアメリカ、カナダなどからの資源調達、あるいは国内での代替素材開発——これらは以前から議論されてきたが、平時には「コスト」として先送りされてきた。戦争という極端な外圧が、長年の構造改革を一気に動かすことがある。
記者
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