米中首脳会談の翌日、プーチンが北京へ向かう理由
米中首脳会談直後に予定されるプーチン訪中。三角外交の復活か、それとも中露関係の「限界」を示す演出か。日本の安全保障と経済に何をもたらすか。
北京で握手した翌日、別の客が同じ椅子に座る。これは偶然ではない。
2026年5月14〜15日、トランプ大統領と習近平国家主席が米中首脳会談を行い、その直後にプーチン大統領が北京を訪問する予定だ。この連続訪問は、冷戦期の「三角外交」を想起させる構図として国際社会の注目を集めている。だが、ニクソン時代の米中接近がソ連を孤立させた歴史と、今回の構図は根本的に異なる。
「三角外交」の幻想と現実
1972年のニクソン訪中は、米中が連携してソ連を戦略的に圧迫するという明確な意図があった。今回、トランプ政権がその手法を再現しようとしているとすれば、条件は大きく異なる。ウクライナ戦争でも、イランとの軍事衝突でも、ワシントンが北京を通じてモスクワに圧力をかけることに成功した形跡はない。
トランプには三角外交の前歴がある。2017年4月、マール・ア・ラーゴで習近平を接待しながら、ロシアの同盟国シリアへの爆撃を電撃的に公表した。当時、中国の専門家は「トランプが中露間に楔を打ち込もうとした」と分析した。中国はその後、国連のシリア化学兵器決議でロシアとともに拒否権を行使せず、棄権に留まった。
しかし2026年の状況はより複雑だ。財務省は今年、イランへの衛星画像提供に関与した中国企業3社(Meentropy Technology、The Earth Eye、Chang Guang Satellite Technology)と、イラン産石油の輸送に関わった中国企業9社を制裁した。一方でロシアはウクライナ戦争で使用するためにイランから供与されたシャヘド型ドローンを改良して再びイランに輸出しているとも報じられている。中露イランの三者は、それぞれ異なる利害を抱えながら、表面上の連帯を演じている。
中露「友情」の数字が語るもの
中露関係を「血管でつながれた一つの体」と表現したのは、清華大学ロシア研究所の呉大輝副所長だ。6万本以上の通信回線が両国を結んでいるという。しかし数字を並べると、別の輪郭が浮かび上がる。
2025年の米中貿易額は4,147億ドル。中露貿易の2,340億ドルのほぼ2倍だ。中国人留学生の数も、米国在籍が265,919人に対し、ロシアは56,000人に留まる。習近平にとってプーチンは「限界のないパートナー」と公言する戦略的な友人だが、経済的な重心は依然として西側、特に米国市場に置かれている。
外相王毅が先月、「より緊密で強固な戦略的協調」を呼びかけたことも注目に値する。外交の文脈では、こうした呼びかけはしばしば協調の欠如を示すシグナルとして読まれる。ロシアのウクライナ全面侵攻直後にも同様の発言があった。言葉が強くなるとき、現実は必ずしも伴っていない。
日本にとって何を意味するか
この地政学的な連続劇は、日本の安全保障と経済に直接的な含意を持つ。
まず、エネルギー安全保障の観点から、ホルムズ海峡の閉鎖リスクは日本にとっても深刻だ。日本の原油輸入の約9割は中東に依存しており、イラン情勢の長期化はトヨタや住友化学など製造業のサプライチェーンに直接響く。肥料・半導体製造に必要な化学品の調達コスト上昇は、農業から電子産業まで広範な影響を及ぼしうる。
次に、対中ビジネスリスクの再評価が求められる。欧州連合は2026年4月、初めてロシアへのデュアルユース技術供与に関わった中国企業に制裁を科した。日本企業も中国経由のサプライチェーンが制裁リスクにさらされる可能性を、より真剣に検討する必要がある。
さらに台湾問題への波及も無視できない。米中首脳会談でどの程度の合意が形成されるかによって、台湾海峡をめぐる緊張の温度感が変わりうる。日本の防衛計画はこのシナリオを中核に置いている。
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