トランプは「勝利宣言」できるか――ホルムズ海峡が握る戦争の終わり方
米イラン戦争は終結に向かうのか。ホルムズ海峡封鎖が世界経済に与える影響、日本のエネルギー安全保障への波及、そしてトランプ大統領の「出口戦略」の実態を多角的に分析します。
日本が輸入する原油の約8割が通過するホルムズ海峡が、今、部分的に閉ざされています。
トランプ大統領は今週、「ディールを成立させることに強い意欲がある」と述べ、イラン側も「交渉を強く望んでいる」と主張しました。ウォール街はこの発言に敏感に反応し、株価は一時持ち直しました。しかし、実際の停戦合意はまだ遠い現実です。米国が提示した15項目の和平案——イランの高濃縮ウラン備蓄の引き渡しやミサイル計画の制限を含む——をイランは拒否し、戦争賠償の支払いを求める独自の5項目案を提示しています。
戦争が始まってまだ約3週間半。トランプ大統領は開戦前、「4〜5週間かそれ以上」かかると予測していました。数字だけを見れば、まだ「想定内」の段階です。
なぜトランプは簡単に「終戦」を宣言できないのか
これまでのトランプ外交を振り返ると、彼は国際的な危機から素早く「勝利宣言」をして撤退する能力を持っていました。2024年のフーシ派爆撃も、ベネズエラへの奇襲作戦も、相手側が「これ以上の損失は割に合わない」と判断して矛を収めたからこそ成立した構図でした。
しかし今回、イランは違う選択をしました。ホルムズ海峡の部分封鎖という手段で、世界経済の「急所」を直接攻撃したのです。元米国防総省中東顧問のイラン・ゴールデンバーグ氏はこう分析します。「トランプはイランを、唯一の出口が自分たちを通り抜けることしかない隅に追い詰めてしまった。イランは体制の生存を脅かされていると感じ、完全に手加減をやめた」。
エネルギー・地政学アナリストのグレゴリー・ブルー氏(ユーラシア・グループ)はより直接的に言います。「最もシンプルな理由はホルムズだ」。イランは海峡を通る貿易の90%以上を遮断できる能力を、大規模な機雷敷設ではなく比較的少数のタンカー攻撃で示してみせました。これは、多くの専門家が予想していた以上に効果的な手段でした。
日本にとって、これは「遠い中東の話」ではない
ここで日本の読者が冷静に考えるべきことがあります。
原油価格の高騰は、日本企業のコスト構造に直接影響します。トヨタや新日本製鐵のような製造業はエネルギーコストの上昇を製品価格に転嫁せざるを得ず、それは消費者物価にも波及します。すでに物価高と賃金上昇の「綱引き」が続く日本経済にとって、エネルギー価格の不安定化は家計を直撃するリスクがあります。
加えて、日本は長年にわたりイランとの経済関係を独自に維持してきた歴史があります。米国の制裁下でも、外交的な配慮を続けてきた経緯があるだけに、今回の戦争は日本の中東外交の立場を複雑にしています。
一方で、アジア・アフリカ諸国が受けるエネルギー・肥料コストの打撃は、米国よりもはるかに深刻です。中国はイランの最重要貿易相手国として、海峡の正常化に向けた外交圧力をかける可能性があります。しかし中国が動くことで、この紛争の地政学的構図がさらに複雑になるという側面もあります。
「終わらせたい」と「終わらせられない」の間で
トランプ大統領の周辺を見ると、停戦への道はさらに険しくなっています。ネタニヤフ・イスラエル首相はイランの軍事力を毎日削ぎ落とせる現状を「純粋な利益」と見ており、継続を望んでいます。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子も、表向きの反対とは裏腹に、トランプ大統領に「仕事を仕上げる」よう私的に促しているとされます。
さらに懸念されるのは、トランプ大統領自身の「情報食」です。報道によれば、大統領は軍の指揮官が編集した「爆発物が吹き飛ぶ」2分間のハイライト映像でこの戦争を消費しているとされます。戦略的コストが最高司令官に正確に伝わっているかどうか、外部からは判断が難しい状況です。
批評家たちは「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも尻込みする)」という言葉で、トランプが反発を受けると引き下がる習性を揶揄します。しかしより中立的に見れば、彼はこれまで「勝利を宣言して次に進む」という能力を発揮してきました。今回それが機能していないとすれば、彼がまだこれを「本当の危機」と認識していないからかもしれません。
記者
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