ホルムズ海峡封鎖——安い兵器が世界経済を人質にする
イランが世界の石油輸送量の5分の1を担うホルムズ海峡を封鎖。米軍の圧倒的優位にもかかわらず、低コストの機雷とドローンが戦況を塗り替えつつある。日本のエネルギー安全保障への影響を読み解く。
1発の機雷が、2隻の空母より強い——。
2026年3月、ホルムズ海峡を行き交う商業船舶は90%以上が姿を消した。世界の石油輸送量の5分の1を担うこの細い水路が事実上閉鎖され、原油価格は急騰。トヨタや新日本製鉄のような製造業の巨人が頼る中東産原油の供給ルートが、突如として不安定になった。
戦争の「重心」はどこへ移ったか
今年2月28日、トランプ政権はイランへの軍事作戦を開始した。米軍は空母2隻を含む艦船・潜水艦約20隻、5万人の兵士、数百機の航空機とドローンを投入。開戦からわずか数日で、トランプ大統領は「米国が勝利した」と宣言した。
しかし3週間が経った今、その自信は大きく揺らいでいる。
イランが取った反撃は、核兵器でも大規模な地上戦でもなかった。機雷とドローン——その二つだった。米当局によれば、すでに約12個の機雷がホルムズ海峡に浮かんでおり、さらに5,000個以上が温存されている。商業船舶の運航者にとって、「もしかしたら機雷があるかもしれない」という恐怖だけで十分だった。航行量は激減し、世界のエネルギー市場は混乱に陥った。
ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの研究員ケリー・グリエコ氏は端的に表現する。「イランはローカルな兵器でグローバルな影響を生み出している」
元イスラエル首相のエフード・バラク氏は、海峡を再開するためには「2個師団、少なくとも2万人の米軍を展開し、長期駐留を覚悟する必要がある」と警告した。そして静かに付け加えた。「アメリカはここ60年、ほぼすべての戦闘に勝ってきた。しかし、一つの戦争にも勝っていない」
「安い兵器」が「高い兵器」に勝つ構造
これは新しい現象ではない。2003年以降のイラク戦争で、米軍は路肩に仕掛けられたIED(即席爆発装置)に苦しみ続けた。当時の敵は、数百万ドルのM1エイブラムス戦車を、数百ドルの爆発物で無力化した。今回、イランが使っているのはその海上版だ。
米軍はこれまでに9,000以上の目標を攻撃し、イランの海軍艦艇140隻を撃沈、弾道ミサイルとドローン能力の約90%を破壊したと発表している。それでもイランの攻撃回数は減るどころか増加している。開戦1週目の18〜27回から、3週目には25〜41回へ。ミサイルからドローンへと主力兵器をシフトさせながら、攻撃の頻度を上げている。
イランの標的は明確だ。UAE(アラブ首長国連邦)のフジャイラ港への攻撃、クウェートのミナ・アル・アフマディ精油所(日量73万バレル処理能力)への連続攻撃。これらは軍事施設ではなく、経済インフラへの打撃だ。「湾岸諸国に経済的痛みを与え、それらの国々にトランプへの圧力をかけさせる」——ファウンデーション・フォー・ディフェンス・オブ・デモクラシーズのアフマド・シャラウィ氏はそう分析する。
さらに今週、イランはインド洋の孤島ディエゴガルシアの米英基地に向けて弾道ミサイル2発を発射した。イランのミサイルが到達した最長距離となる(1発は失敗、1発は迎撃)。これは能力の誇示であり、交渉カードでもある。
掃海作戦という「最後の難関」
米海軍にとって、機雷除去は最も難しい課題の一つだ。歴史はその困難さを繰り返し証明している。
1987年のオペレーション・アーネスト・ウィルでは、護衛対象だった米国籍タンカーブリッジトンが最初の任務で機雷に接触した。1991年の湾岸戦争では、掃海旗艦のUSS トリポリが機雷原に突入し、船首に大穴を開けた。
現在、米海軍の掃海能力は過渡期にある。2025年にアベンジャー級掃海艦8隻のうち半数が退役。残る4隻は中東ではなく日本に配備されている。代替として期待される沿岸戦闘艦は、バーレーンに通常配備されている2隻がシンガポールでメンテナンス中、もう1隻はインド洋にいた。
退役海軍大佐で掃海艦USS レイヴンの元艦長、サム・ハワード氏はこう語る。「遠隔操作で掃海できる能力があるなら、それを使うべきだ。米国の若者をより少ないリスクにさらせるなら、それは良いことだ」
掃海作戦が始まるまでには、まずミサイルとドローンの脅威を抑える必要がある。F-16とF-18による小型攻撃艇の排除、上空監視の確立、そして駆逐艦による掃海船の護衛——そのすべてが整って初めて機雷除去が始まる。フォート・ディフェンス・オブ・デモクラシーズの退役海軍少将マーク・モンゴメリー氏は率直に言う。「ドローンは心配していない。機雷が心配だ」
日本への影響——エネルギー安全保障の再点検
日本にとって、この戦争は遠い中東の出来事ではない。
日本の原油輸入の約90%は中東からで、その大部分がホルムズ海峡を通過する。トヨタの生産ラインも、東京電力の発電所も、新日本製鉄の高炉も、この細い水路に依存している。原油価格の急騰はすでにガソリン価格や電力料金に波及し始めており、物価上昇に悩む日本の家計をさらに圧迫しつつある。
日本政府は石油備蓄(国家備蓄約145日分)を持つが、これは「時間を買う」手段に過ぎない。長期化すれば、代替ルートの確保(アフリカ南端を回るケープルート)やエネルギー源の多様化が急務となる。LNG(液化天然ガス)の調達先分散や再生可能エネルギーへの加速投資が、改めて現実的な選択肢として浮上している。
一方で、日本企業にとっての機会もある。川崎重工業や三菱重工業が手がける掃海艦技術、あるいはソニーやNECが開発する水中センサー技術は、今後の国際的な海洋安全保障ニーズに応える可能性がある。
記者
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