油価急騰でも揺れなかったビットコイン:誰が買い支えたのか
イラン戦争による原油高騰で世界株式市場が揺れる中、ビットコインは今月4%上昇。OTC取引、MSTR、機関投資家ETF流入が価格を支えた構造を読み解く。
100ドルを超えた原油価格が世界市場を揺さぶる中、ビットコインだけが静かに上昇していた。
2026年3月、イラン情勢の緊迫化を受けてブレント原油とWTI原油は今月だけで30%急騰し、1バレル100ドル超えを記録した。アジアとヨーロッパの株式市場は下落圧力にさらされ、リスク資産全般が売られる局面だった。ところがビットコイン(BTC)は、同期間に約4%上昇して70,200ドル前後で推移している。CoinDesk のデータが示すこの「逆行」は、偶然ではなかった。
誰が、どのように買い支えたのか
高頻度取引会社・流動性プロバイダーであるWincentのシニアディレクター、Paul Howard氏は、CoinDesk への電子メールでこう説明した。「需要を牽引したのは、大口のOTC(相対取引)による購入、イラン紛争の早期終結を見越したポジション取り、そしてMSTR(Strategy)による買い増しです。地政学的イベントとのタイミングの一致は、リスク資産への信頼が戻り始めているサインかもしれません。」
OTCデスクとは、公開取引所を介さず、売買当事者が直接または仲介業者を通じて大口取引を行う私設の場だ。大口トレーダーや機関投資家がOTCを好む理由は明快で、市場価格に影響を与えずに大量の売買を執行できるからである。今回の下落局面でも、そうした「見えない手」が静かに価格の床を作っていた。
Strategy(旧MicroStrategy)の動きも見逃せない。同社は3月2日から8日の間に17,994BTCを追加購入し、総保有量を738,731BTCに引き上げた。暗号資産分析会社Nexoのアナリスト、Iliya Kalchev氏は「ビットコインのネットワークはすでに2,000万BTCの採掘を突破しており、残り発行可能枚数は100万枚未満です。1日あたりの新規供給は約450BTCに過ぎない中、Strategyは約5週間分の供給量に相当するBTCを一度に購入した計算になります」と指摘する。同社の保有比率は流通供給量の約3.7%に達した。
ETF(上場投資信託)経由の機関投資家マネーも動いた。米国に上場する11本のスポットビットコインETFは今月だけで純流入7億ドル超を記録。インド拠点の取引所GiottusのCEO、Vikram Subburaj氏によれば、2月下旬からの累計純流入は17億ドルに達し、約4ヶ月間続いた流出傾向を完全に逆転させた。3月8〜10日の週間純流入だけでも5億6,800万ドルに上る。
オンチェーンデータも同じ方向を指している。1,000BTC以上を保有する大口ウォレットは、直近の下落局面でバランスを約0.3%増加させた。また、60,000〜70,000ドルの価格帯で40万BTC超が手を変えており、この価格帯が強力な需要ゾーンとして機能していることが読み取れる。
「キャリートレード」という新たな戦略
Howard氏が注目するもう一つの動きが、MSTR株のショートとビットコインETFのロングを組み合わせた「キャリートレード」の復活だ。BTCがMSTR株よりも速く上昇すれば利益が出る構造で、リスクをヘッジしながらビットコインの上昇を取り込もうとする洗練された戦略である。こうした取引の存在は、市場参加者がビットコインを単なる投機対象ではなく、ポートフォリオの中で意図的に位置づけるようになっていることを示唆している。
日本市場への視点:「安全資産」の定義が変わりつつある
日本の投資家にとって、この動きはいくつかの問いを投げかける。
伝統的に、地政学リスクが高まると資金は円や金、米国債に向かうとされてきた。しかし今回、ビットコインはその「逃避先」の一角に入り込んだように見える。もちろん、1回の事象で結論を出すのは早計だ。ビットコインは依然として高いボラティリティを持ち、規制環境も国によって大きく異なる。
一方で、日本国内でもSBIやMonexなどを通じた暗号資産投資の裾野は着実に広がっている。金融庁がビットコインETFの国内解禁に向けた議論を慎重に進める中、海外の機関投資家マネーが先行して流入している構図は、日本の投資家にとって「乗り遅れ」のリスクとして映るかもしれない。
また、円安が長期化する局面では、ドル建て資産としてのビットコインへの関心が高まる側面もある。ただし、その逆もまた然りで、円高転換時の為替リスクは無視できない。
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