Liabooks Home|PRISM News
暗号資産ETP、2026年に大増殖?「乱立」の先に待つ勝者と敗者の条件
Economy

暗号資産ETP、2026年に大増殖?「乱立」の先に待つ勝者と敗者の条件

Source

2026年、SECの規制緩和で暗号資産ETPが急増する見通し。市場の成熟化を意味する一方、淘汰の波も。投資家が知るべき勝者の条件を専門家が分析。

2026年、暗号資産ETPは「増殖」から「淘汰」の時代へ

米SEC(証券取引委員会)の規制合理化を追い風に、2026年は暗号資産ETP(上場取引型金融商品)が爆発的に増加する「ETFパルーザ」の年になる——。デジタル資産運用企業Bitwiseが投じたこの予測は、市場の熱狂を煽る一方で、より本質的な問いを我々に投げかけています。それは、単なる選択肢の増加が、投資家にとって真の価値をもたらすのかという問いです。本質は、量の爆発の先に待つ「質の競争」と「淘汰の始まり」にあります。

本記事のポイント

  • 規制の簡素化が引き金: 米SECがETPの上場プロセスを合理化。これまで最大240日を要した手続きが不要になり、新規参入の障壁が劇的に低下しました。
  • 「ETFパルーザ」という熱狂: Bitwiseは、規制緩和を背景に2026年に暗号資産ETPが乱立する「お祭り」状態を予測しています。
  • 「ETFの墓場」という現実: 一方で、Bloombergの専門家は、過当競争により多くの商品が18ヶ月以内に淘汰される「清算の波」が来ると警鐘を鳴らしています。
  • 市場の成熟化: この一連の動きは、暗号資産がニッチなアセットから、伝統的金融市場の論理が通用する、成熟した投資対象へと移行していることを示唆しています。

詳細解説:なぜ「乱立」と「淘汰」が同時に語られるのか?

背景:ゲームを変えたSECの決断

今回の予測の震源地は、2025年9月にSECが承認した新ルールにあります。これにより、暗号資産を含む現物(スポット)コモディティを保有するETPを取引所が上場させる際、これまで必須だった個別のSEC審査(19(b)ルール申請)が不要となりました。これは、いわば高速道路が開通したようなもの。これまで時間とコストをかけて参入を伺っていた運用会社が、一斉に市場になだれ込む準備が整ったのです。

業界への影響:「ゴールドラッシュ」の光と影

この「ゴールドラッシュ」は、二つの側面を持っています。一つは、投資家にとっての「選択肢の民主化」です。ビットコインやイーサリアムだけでなく、多様なアルトコイン、DeFi(分散型金融)指数、さらにはステーキング報酬を組み込んだ商品など、これまでアクセスが難しかった戦略に、証券口座を通じて手軽に投資できるようになる可能性があります。

しかし、もう一つの側面は、ブルームバーグのジェームズ・セイファート氏が指摘する「過当競争」です。すでに126以上もの申請が準備されているとされ、市場のパイを奪い合う熾烈な戦いが始まります。体力のない運用会社や、特徴のない「模倣」商品は、十分な資産(AUM)を集められず、わずか1〜2年で市場からの撤退(上場廃止・繰上償還)を余儀なくされるでしょう。これは、2000年代初頭の伝統的なETF市場でも見られた光景の再現です。

PRISM Insight:単なる「選択肢の増加」ではない。投資家が直面する新たな選別眼

このトレンドを単に「新しい暗号資産ETPがたくさん出る」と捉えるのは早計です。「So What?(だから何なのか?)」の答えは、「投資家の『目利き力』が、これまで以上にリターンを左右する時代の到来」を意味することにあります。

これまでの暗号資産投資は、「どのコインに投資するか」が中心でした。しかし今後は、「どの『ビークル(金融商品)』を通じて投資するか」という視点が極めて重要になります。投資家は、以下の点を冷静に比較・検討する必要に迫られます。

  • 信託報酬(コスト): 競争激化により、手数料引き下げ合戦が予想されます。わずか0.1%の差が、長期的なリターンに大きな影響を与えます。
  • 発行体の信頼性: BlackRockやFidelityのような巨大資産運用会社から、暗号資産専門の新興企業まで、発行体の運用実績や信頼性は様々です。
  • 流動性とトラッキングエラー: 資産規模(AUM)が小さく取引が閑散なETPは、売買したい価格で取引できなかったり、原資産の価格との乖離(トラッキングエラー)が大きくなったりするリスクを抱えます。
  • 商品の独自性: 単純なビットコインETPだけでなく、複数の資産を組み合わせたバスケット型、ステーキング報酬を投資家に還元する仕組みを持つものなど、商品の設計思想を見極める必要があります。

これは、暗号資産市場が「無法地帯」から「プロの戦場」へと移行する過程であり、投資家もまた、プロフェッショナルな視点を持つことが求められるのです。

今後の展望

2026年の「ETFパルーザ」は、市場拡大の起爆剤となるでしょう。しかし、その熱狂が冷めやらぬ2027年末にかけて、最初の淘汰の波が訪れると予測されます。このプロセスを通じて、競争力のある商品と信頼性の高い発行体だけが生き残り、業界の再編が進みます。

長期的には、この健全な新陳代謝が市場の成熟を促し、より多くの機関投資家を呼び込む呼び水となります。投資家にとっては、選択肢の洪水に惑わされることなく、本質的な価値を見抜く力が試される、挑戦的かつエキサイティングな時代の幕開けと言えるでしょう。

暗号資産ETF機関投資家SEC規制緩和

関連記事