AIの英語は、なぜ「ロボットっぽい」のか
AI生成の英語と人間の英語には、明確な違いがあります。言語学の研究者が指摘する「試験英語」の問題と、AI時代における言語の多様性について考えます。
あなたはAIが書いた文章を読んで、何か「引っかかり」を感じたことはないでしょうか。内容は正確で、文法も完璧。でも、どこか冷たい。まるで自動販売機から出てきたような言葉、と表現した人もいます。
この「引っかかり」には、れっきとした言語学的な理由があります。
「試験英語」が世界を覆い始めている
ミシガン大学で英語の制度化を研究するLaura Aull氏は、AI生成テキストと人間が書いたテキストの違いを長年研究してきました。彼女が注目するのは、二つの言語的特性です。変化の多様性(Variation)と読みやすさ(Readability)。
人間が書く英語には、微妙だが持続的なパターンの揺らぎがあります。文の長さが変わり、砕けた表現と改まった表現が自然に混在し、時には文法を意図的に破る。それが「声」を生み出します。
一方、AIが生成する英語は、Aull氏が「試験英語(Exam English)」と呼ぶスタイルに収束しがちです。学術論文や標準化テストで高く評価される、均質で情報密度の高い文体です。正確で、整っていて、そして——どこか人間味に欠ける。
具体的な例を見てみましょう。以下の二つのメッセージ、どちらが人間でどちらがAIでしょうか。
「i'm not sure how to break this to you. there's no easy way to put it…i can't make the friday-night fun. sorry. however, feel free to text me during the evening if there are any lulls in conversation.」「Hey! I'm really sorry, but I won't be able to make it Friday night. I hope you all have a great time, and I'll see you next term!」
一つ目は小文字が混在し、「ur」「u」といった短縮形が使われています。二つ目は正しい大文字・句読点・スペルで統一されています。多くの人が直感的に感じる通り、一つ目が人間、二つ目がChatGPTの出力です。
なぜAIは「試験英語」を学んでしまったのか
大規模言語モデル(LLM)はインターネット上の膨大なテキストで学習しますが、重要なのはその「フィルタリング」の過程です。 人間の指示によって「フォーマルな英語らしく」振る舞うよう訓練されます。その結果、AIは標準化された人間のテキストに内在するバイアスごと学習してしまいます。
さらに問題を複雑にするのは、AIが生成したテキスト自体が次世代のAIの学習データになっていることです。均質な「試験英語」が自己強化のループに入り込んでいます。
Aull氏はこう指摘します。「インターネットが何を正しいとするかを信用しない人でも、生成AIが書き方を教えてくれると信頼している」と。これは単なる皮肉ではなく、私たちの言語観そのものへの問いかけです。
日本社会への接続点:「正しい日本語」の呪縛
この問題は英語だけの話ではありません。日本語においても、AIはしばしば「模範的な」文体を出力します。敬語は完璧、句読点は適切、感情表現は控えめ——まるで教科書のような日本語です。
日本では長らく「正しい日本語」への強いこだわりがあります。学校教育でも、ビジネスの場でも、標準的な文体が高く評価されてきました。その意味で、AIの「試験的な」文体は日本の言語規範と親和性が高いとも言えます。
しかし、それは同時に危険でもあります。ソニーやトヨタのような日本企業がAIを使ってグローバルに発信する際、均質化されたAI英語は「日本らしさ」や「ブランドの声」を薄めてしまう可能性があります。企業のコミュニケーションにおける「個性」とは何か、改めて問われています。
また、日本の高齢化社会と労働力不足の文脈では、AIによる文書作成の効率化は切実なニーズです。しかし効率を追い求めるほど、言語の多様性は失われていく——このトレードオフをどこで折り合いをつけるかは、日本社会が直面する現実的な課題です。
「賢そうに聞こえる」ことの罠
Aull氏が最も強調するのは、「密度が高く、非人称的な文体=賢い」という思い込みへの警戒です。150年以上にわたる試験英語の歴史が、私たちにそう錯覚させてきました。
AIが生成する文章は、確かに「賢そうに聞こえる」。でもそれは、多様な読者にとって必ずしも読みやすくはなく、グローバルな英語の実態を反映してもいません。
Aull氏はより意識的なAI活用のために、いくつかの提案をしています。「密度が高い」「平易だ」「対人的だ」といった言語そのものの特性で文章を評価すること。AIを選択的に使うこと。そして、特定のバイアスを除去するツールや、多言語対応のチャットボットなど、より多様性を考慮したツールを選ぶこと。
記者
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