民主主義の逆説:スキャンダルに強いアメリカ、弱いイギリス
エプスタイン事件がトランプには軽傷、スターマーには致命傷となる理由。民主的責任の在り方を問う政治システムの違いとは。
同じスキャンダルが、一方の国では政治家のキャリアを終わらせ、もう一方では軽微な問題として処理される。これは民主主義の健全性を示すのか、それとも制度の欠陥を露呈しているのか。
ジェフリー・エプスタイン事件をめぐる英米の対照的な反応が、この根本的な問いを突きつけている。エプスタインと親交があったドナルド・トランプ大統領にとっては軽微な問題に過ぎないが、エプスタインと面識すらなかったキア・スターマー英首相の政治生命を脅かしている。
スターマーを襲う「第三の男」の呪い
スターマー首相の支持率は71%の不支持率を記録し、第二次大戦後最も不人気な英政府を率いている。その原因は、ピーター・マンデルソンを駐米大使に任命したことだった。
「闇の王子」と呼ばれるマンデルソンは、エプスタインとの親交が以前から知られていたにもかかわらず任命された。しかし、昨年9月に事態は急転する。司法省が公開した350万件の文書により、マンデルソンとエプスタインの関係がより深刻だったことが明らかになったのだ。
文書には、マンデルソンがエプスタインにEUの救済策に関する機密情報を提供した疑いや、エプスタインからの直接的な金銭授受、さらには下着姿の写真まで含まれていた。これはマンデルソンにとって3度目の不名誉な政界退場となり、今回は枢密院、貴族院、労働党からの完全な除名という徹底した処分が下された。
アメリカの「スキャンダル耐性」
一方、アメリカでは同じエプスタイン関連の暴露も政治的影響は限定的だ。トランプ大統領は2月3日、「私については何も出てこなかったのだから、そろそろ別の話題に移る時だ」と述べた。商務長官のハワード・ルトニックやイーロン・マスクも、エプスタインとの往復書簡が明らかになったが、軽く受け流している。
この違いは制度的な要因に根ざしている。英国の議会制では、党首への不信任が直ちに政権交代につながるため、スキャンダルは政治的致命傷となりやすい。対照的に、アメリカの大統領制では弾劾という極端な手段以外に大統領を罷免する方法がなく、党派性の高い議会では事実上機能していない。
権力分立の皮肉な現実
ボリス・ジョンソン元首相を失脚させた「パーティゲート」スキャンダルは、ロックダウン中の政府関係者の飲み会が問題となったものだった。しかし、同時期のホワイトハウスでのパーティーは、トランプの100大スキャンダルにも入らないだろう。
リズ・トラス元首相は、予算責任庁の適切な査定を受けずに減税案を提出しただけで辞任に追い込まれた。一方、アメリカは昨年2.2兆ドルの財政赤字を計上したが、議会予算局にそのような権限はない。
皮肉なことに、理論上より強い権力を持つはずの英首相の方が、チェック・アンド・バランスで制約されるはずのアメリカ大統領よりも民主的説明責任に晒されている。
日本への示唆:安定と責任のバランス
日本の政治システムは英国に近い議会制を採用しているが、政治的安定を重視する文化的特性がある。岸田文雄首相の支持率低下や自民党内の派閥政治も、この英米比較の文脈で考える必要があるだろう。
トマス・ジェファーソンは250年前、「人間の本性は大西洋の両側で同じだ」と警告した。腐敗と専制に対する警戒は、それらが根を下ろす前に行うべきだと。
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