金が売られ、ビットコインが残る理由
中東紛争が4週目に入り、金が9日連続下落する一方、ビットコインは主要資産の中で最も底堅い動きを見せています。伝統的な安全資産の「常識」が問われる局面を解説します。
戦争が始まれば、金を買え――。その「常識」が、今週ひっそりと崩れつつあります。
イランとの紛争が4週目に突入した2026年3月23日月曜日の朝、ゴールドは1トロイオンスあたり4,360ドルまで下落し、9日連続の値下がりという数年ぶりの記録を更新しました。アジア株は3日連続で下落し、修正局面(直近高値から10%以上の下落)に入ろうとしています。債券利回りは上昇し、S&P500とヨーロッパ株の先物も続落を示唆しています。原油(ブレント)は1バレル113ドルまで上昇し、年初来で実に70%超の上昇率を記録しています。
そんな中で、ビットコインは68,316ドルで取引されています。週間では6%の下落ですが、過去24時間では1.5%上昇しており、主要資産の中で「最も下落が少ない」という異例の立ち位置にいます。
「全てが売られる相場」で何が起きているのか
ホルムズ海峡の封鎖が続く中、ゴールドマン・サックスは今年のブレント原油の通年予測を77ドルから85ドルへ、WTIを72ドルから79ドルへ引き上げ、今回の供給混乱を「史上最大の原油供給ショック」と表現しました。エネルギー価格の高騰はインフレを押し上げ、中央銀行が利下げではなく利上げへと向かう圧力を生み出しています。これが株式市場と債券市場を同時に圧迫するという、投資家にとって最も対処しにくい「悪いシナリオ」です。
本来、こうした局面で輝くはずの金がなぜ下落しているのでしょうか。SEC登録の投資顧問会社Two PrimeのCEO、アレクサンダー・ブルーム氏はこう分析します。「金の上昇とビットコインの下落は、市場原理よりも構造的な要因によるものです。中国などの国々が、ドルや西側市場からの分離を目的として、組織的に金を買い増してきました」。つまり、紛争が激化するにつれ、これらの国が「安全のための保有」から「流動性の確保」へと優先順位を切り替え、金を売り始めたというのです。
その証拠に、金は直近の高値から約18%下落しています。一方でビットコインは、2月28日以降の戦争関連の売りが続く中でも、66,000ドルという節目を一度も割り込んでいません。
日本市場への影響と、投資家が考えるべきこと
日本の投資家にとって、この状況は複数の観点から注目に値します。
まず、エネルギーコストです。日本は原油の輸入依存度が高く、ブレント原油が113ドルに達した現状は、電力・ガス・輸送コストを通じて企業収益と家計を直撃します。トヨタや日本製鉄など製造業の輸出企業は、コスト上昇と円安(もしくは円高)の両方向のリスクにさらされています。
次に、円と安全資産の問題です。地政学的リスクが高まる局面では、伝統的に円が「安全通貨」として買われる傾向があります。しかし今回は、ドル建て資産全体への不信感と、インフレ懸念から米国債利回りが上昇しているという複雑な構図があり、円の動向も一筋縄ではいきません。
そしてビットコインです。日本は暗号資産の規制整備が比較的進んでいる国の一つであり、個人投資家の保有比率も高い市場です。今回の「ビットコインが金より底堅い」という現象は、暗号資産を「投機商品」としてのみ捉えてきた視点を再考させるきっかけになるかもしれません。ブルーム氏は「今後数週間から数ヶ月にかけて、先物・資金調達レートが上昇する」と予測し、上昇サプライズの可能性に賭けていると述べています。
もっとも、慎重な見方も必要です。トランプ大統領が土曜日に発した「イランの発電所を攻撃・壊滅させる」という48時間の最後通牒は月曜夜に期限を迎えます。イラン側は「ホルムズ海峡の無期限封鎖と、米国・イスラエルのエネルギーインフラへの報復攻撃」を警告しています。事態が更に悪化した場合、ビットコインを含む全ての資産が一段の売り圧力にさらされる可能性は否定できません。
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