米イラン衝突が長期化すれば、ビットコインは勝者になるか
米国とイランの軍事的緊張が長期化する中、マクロ戦略家マーク・コナーズは戦費拡大による財政赤字膨張と流動性増加がビットコインを押し上げる可能性を指摘。日本の投資家にとっての意味を読み解く。
戦争が長引くほど、ビットコインには追い風が吹く——そんな逆説的な見立てが、いま市場で注目を集めています。
何が起きているのか
2026年3月9日、米国がイランへの軍事攻撃を開始して以降、金融市場は激しく揺れ動いています。WTI原油は一時1バレル120ドルまで急騰し、株式市場は大幅安に転じました。その一方で、ビットコインは一時65,000ドルまで下落した後、急反発して69,000ドル台を回復。最初の米軍攻撃以降の上昇率は3.6%に達しています。
この動きに着目したのが、マクロ戦略家のマーク・コナーズ氏です。かつてクレディ・スイスでグローバル・ポートフォリオ&リスク・アドバイザリーの責任者を務め、現在はビットコイン専門のアドバイザリー会社「Risk Dimensions」を率いる同氏は、「紛争が数カ月単位で長期化すれば、ビットコインにとって構造的な追い風になる」と述べています。
そのロジックはシンプルです。戦争には莫大な資金が必要であり、政府は国債を増発してその費用を賄います。国債増発は市場に流通するドルの量を増やし、ドルの価値を希薄化させます。歴史的に、そうした「通貨の希薄化(デベースメント)」局面では、ドル以外の資産——金やビットコイン——への資金シフトが起きやすいとされています。
「流動性がビットコインを動かす」——その構造
コナーズ氏が特に強調するのは、米国の財政状況の悪化速度です。米連邦政府の債務は2025年半ばから年率約14%のペースで増加しており、このトレンドが続けば前年比15%増に達する可能性があると同氏は指摘します。「これはデベースメントそのものだ」と彼は言い切ります。
さらに重要なのがFRB(連邦準備制度理事会)の役割です。コナーズ氏は、FRBが物価安定と雇用最大化という2つの公式な使命に加え、事実上「第3の使命」を持つと分析します——それは、米国債市場の円滑な機能を維持することです。2019年のレポ市場危機や2023年の地方銀行破綻が示したように、急激な金利上昇は金融システム全体を不安定化させます。政府が戦費調達のために短期国債の発行を増やす中、FRBは金利を引き下げざるを得ない圧力に晒されるというわけです。
さらに、トランプ大統領が5月のFRB議長交代候補として指名したケビン・ウォルシュ氏が「ハト派」的な姿勢で知られることも、この見立てを補強します。「金利が下がり、債務が拡大し続ける——それがビットコインの好調な局面のバックグラウンドだ」とコナーズ氏は語ります。
ただし、楽観シナリオだけではありません。原油高騰によるインフレ加速は、このシナリオを複雑にする要素です。スタグフレーション(景気停滞+物価上昇)が現実になれば、政策当局はインフレ抑制よりも金融安定と政府資金調達を優先せざるを得ず、それでもなおビットコインには支援的な環境になると同氏は主張します。しかし、これはあくまで「主張」であり、歴史的な検証が十分でない部分も残ります。
日本の投資家・市場への視点
この分析は、日本の投資家にとって他人事ではありません。
第一に、円安リスクです。米国の財政赤字拡大とドル希薄化が進めば、円ドル相場にも影響が及びます。円が相対的に強くなる局面では、ドル建てのビットコイン投資のリターンが目減りするリスクがあります。逆に、日本国内でも財政拡張が続けば、円自体の価値も問われることになります。
第二に、エネルギーコストの問題です。日本はエネルギーの大部分を輸入に依存しており、原油価格の急騰は企業収益と家計を直撃します。トヨタやソニーなどの製造業大手にとって、エネルギーコストの上昇は生産コストに直結します。地政学リスクが「ビットコインの追い風」として語られる一方で、日本の実体経済には逆風となり得る点は見落とせません。
第三に、日本の暗号資産市場の成熟度です。日本は世界でも早期に暗号資産取引所を法的に整備した国の一つです。地政学リスクヘッジとしてのビットコインという議論が広まれば、国内の機関投資家や個人投資家の関心が高まる可能性があります。
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