マレーシアは「中立」を守れるか――レアアース契約が問う岐路
米国防総省とオーストラリアのライナス社によるレアアース供給契約が、マレーシアで激しい反発を招いている。中米競争の狭間で、中立外交を掲げるマレーシアの選択が問われている。
「中立」とは、何もしないことではない――マレーシアが今、その言葉の重さを突きつけられている。
2026年4月、マレーシアの市民社会団体57組織が連名で覚書を発表した。オーストラリアのライナス・コーポレーションと米国防総省が締結した約9,600万ドルのレアアース供給契約に反対するためだ。問題の核心は、マレーシア・パハン州ゲバン施設でのレアアース処理が、事実上、米軍の兵器サプライチェーンに組み込まれるという懸念にある。
「土地が武器になる」という懸念
サハバット・アラム・マレーシア(地球の友マレーシア)のメナカシ・ラマン代表は、問題の本質をこう整理する。レアアース酸化物は先端兵器システムの重要な原料であり、マレーシア国内でその処理が行われれば、マレーシアは米軍の作戦に間接的に加担することになる、と。
彼女が特に指摘するのは、国際法上の責任だ。国連総会が2001年に採択した「国際違法行為に対する国家責任に関する条文(ARSIWA)」第16条は、ある国が他国の国際違法行為を知りながら援助・支援することを禁じている。「マレーシア政府は、自国の領土と制度がどのように使われているかに対して無関心でいることはできない」とラマン氏は語る。
この反発は、二つの外国企業間の契約に対するものだという点で異例だ。それだけ、レアアースをめぐる地政学的緊張が、当事者以外の国々にも深く波及していることを示している。
揺らぐ貿易の土台
この論争は、マレーシアと米国の貿易関係が大きく揺れている時期に重なる。2026年2月、米連邦最高裁判所は、トランプ前大統領が「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づいて発動した関税が違憲であるという判断を下した。この判決により、2025年10月に締結されたマレーシアと米国の「相互貿易協定(ART)」は法的根拠を失い、マレーシアは協定の無効を公式に宣言した最初の国となった。
貿易産業投資相のジョハリ・アブドゥル・ガニ氏は、米国から「公式な連絡は受けていない」と述べるにとどまり、二国間関係は宙に浮いた状態が続いている。家具輸出業者などの現場では、米国市場への依存度を見直し、コスト削減を迫られているが、中国市場への急転換にも慎重な姿勢を崩していない。
ウニベルシティ・テクノロジー・マラのモフド・ラムラン講師はこう指摘する。「19%の関税率を確保しようとした急ぎの協定は、長期的な戦略的ポジショニングを見落とした戦術的な動きだった」。さらに、トランプ政権はすでに1974年通商法第301条を用いた新たな調査に切り替えており、「方向性は変わっていない――手法が変わっただけだ」と分析する。
「どちらの側にもつかない」という戦略
では、マレーシアはどこへ向かうべきなのか。ヌサンタラ戦略研究アカデミー上席研究員のアズミ・ハッサン氏は、「マレーシアは米国・中国・ロシアという三大勢力の間に位置しており、レアアース埋蔵量は比較的小規模ながら、戦略的重要性は高い」と述べる。しかし同氏は、マレーシアがレアアースを地政学的な交渉カードとして使う意図はなく、あくまで自国の開発ニーズのために活用すべきだと強調する。
ラムラン氏が提唱するのは「マルチ・アライメント戦略」だ。RCEPや一帯一路を通じて中国との経済関係を深めながら、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の下で米国とのハイテク・安全保障分野の協力を拡大する。半導体組立やEVバッテリー生産の中立的ハブとして自国を位置づけることで、「どちらの側からも強制されるコストを高める」という論理だ。
この戦略は、日本が長年模索してきた「経済安全保障」の問題と構造的に似ている。トヨタやソニーをはじめとする日本企業も、レアアースの安定調達という課題を抱えており、マレーシアの動向は対岸の火事ではない。ライナス社はマレーシアに加え、日本向けの供給も視野に入れており、同国の政策判断は日本企業のサプライチェーン設計にも直接影響しうる。
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