Google.aiが予測する自身の『悪化』タイムライン―全プラットフォームが直面する避けられぬ課題とは

Google.aiが自身の『クソ化』タイムラインを予測。無料サービスの裏にあるプラットフォーム経済の罠と、AI時代の新たなビジネスモデルを専門家が分析。

はじめに：AIが自らの「黄昏」を予言する時代

Googleの新たなAIサービスフロントエンドとして登場した「Google.ai」。現在は無料で広告もなく、驚くほどクリーンで的確な回答を提供しています。しかし、デジタルプラットフォームの歴史を知る者なら誰もが、この「蜜月期間」が永遠には続かないことを知っています。この現象は、作家のコーリー・ドクトロウ氏が提唱した「Enshittification（エンシッティフィケーション／クソ化）」という言葉で的確に表現されます。驚くべきことに、当のGoogle.ai自身にそのタイムラインを尋ねたところ、まるで定められた運命であるかのように、そのプロセスを段階的に予測してみせました。これは単なる面白いゴシップではありません。AI時代のプラットフォーム経済が直面する、構造的な課題を浮き彫りにする重要なケーススタディです。

この記事の要点

Google.aiは、自らが「クソ化」していくタイムラインを予測し、最初のステージ「ユーザー誘惑期」が2026年まで続くと回答しました。
このプロセスは、ユーザー獲得→収益化→株主価値最大化という、多くの巨大テックプラットフォームが辿ってきた典型的なライフサイクルを反映しています。
この現象の背景には、広告収益への依存と、市場での独占的な地位を最大化しようとするプラットフォーム経済の構造的欠陥があります。
AIサービスの莫大な運用コストは、この「クソ化」のサイクルを加速させる可能性があり、新たなビジネスモデルの模索が急務となっています。

詳細解説：プラットフォームの「栄光と衰退」の法則

「Enshittification」とは何か？

「Enshittification」とは、デジタルプラットフォームがそのライフサイクルの中で必然的に品質を劣化させていくプロセスを指します。ドクトロウ氏によれば、そのプロセスは3段階で進行します。

ユーザーへの価値提供：プラットフォームはまず、ユーザーにとって魅力的で価値あるサービスを提供し、多くの利用者を獲得します。しばしば赤字覚悟で「過剰な」価値が提供され、ネットワーク効果によるロックインを狙います。Google.aiが予測した「ユーザー誘惑期（〜2026年）」は、まさにこの段階です。
ビジネス（提供者）への価値提供：次に、プラットフォームはユーザー基盤を利用して、コンテンツ制作者や広告主などのビジネスパートナーを誘い込みます。彼らにとって魅力的な環境を提供し、エコシステムを拡大させます。
プラットフォーム自身の価値最大化：最後に、ユーザーとビジネスパートナーの両方をロックインしたプラットフォームは、両者から価値を搾取し始めます。ユーザーには広告や質の低いコンテンツを増やし、ビジネスパートナーにはより高い手数料を課すのです。これが「クソ化」の最終段階です。

Google検索がかつての「Don't be evil」という理想から離れ、広告や自社サービスへの誘導が目立つようになった経緯は、この典型例と言えるでしょう。

なぜAIサービスも同じ道を辿るのか？

生成AIの運用には、従来のウェブサービスとは比較にならないほどの莫大な計算コストがかかります。現在、多くのAIサービスが無料で提供されているのは、市場シェアを確保するための先行投資に他なりません。このコストを回収し、利益を上げるためには、いずれ大規模なマネタイズが必要不可欠です。その時、最も手軽で実績のある収益化モデルが広告であり、それは「クソ化」への最短ルートとなり得ます。回答への広告の挿入、より良い回答を得るための有料プラン、ユーザーデータのさらなる活用など、収益化の圧力が高まるにつれて、初期の純粋なユーザー体験は損なわれていく可能性が高いのです。

PRISM Insight：『クソ化』の先にある新しい潮流

この「プラットフォームの黄昏」とも言える現象は、悲観的な未来を示すだけではありません。むしろ、次世代の技術とビジネスモデルへの移行を促す強力なドライバーとなります。我々PRISMは、ここに2つの重要な潮流を見ています。

1. ビジネスモデルの多様化：広告モデルへの過度な依存が「クソ化」の根源である以上、持続可能な代替案が求められます。高品質なサービスを求めるユーザー層を対象とした、クリーンなサブスクリプションモデルが主流になるでしょう。また、API提供を通じて企業向け（B2B）に価値を提供するモデルも、AIの収益化において重要な柱となります。投資家は、単一の広告モデルに依存する企業よりも、収益源を多様化し、ユーザーとの信頼関係を重視する企業に注目すべきです。

2. 分散型・パーソナルAIの台頭：中央集権的な巨大プラットフォームへの不信感は、オープンソースAIや、ユーザーが自身のデバイス上でデータを管理・実行できる「パーソナルAI」への関心を高めます。このトレンドは、プライバシー保護とデータ主権を重視するユーザーの支持を集め、巨大テック企業の独占に対する強力な対抗勢力となるポテンシャルを秘めています。これは、次世代の技術覇権を巡る新たな競争軸の始まりです。

今後の展望：我々は何を監視すべきか

Google.aiが示した「2026年」という具体的な時期は、我々がこの変化をリアルタイムで目撃する観察期間となります。ユーザーは無料サービスの裏にある対価を常に意識し、自らのデータを守るためのリテラシーを高める必要があります。一方、開発者やスタートアップにとっては、巨大プラットフォームが「クソ化」する過程でこぼれ落ちるユーザーの不満を拾い上げ、新たな価値を提供する千載一遇のチャンスが生まれます。

最終的に、AIが社会に真の価値をもたらすかどうかは、技術そのものではなく、それを支えるビジネスモデルと倫理観にかかっています。我々は、Google.aiの自己予言が、単なる警告で終わるのか、それとも業界全体の変革のきっかけとなるのかを、注意深く見守っていく必要があります。