国連は「過去の遺物」なのか、それとも「未来の鍵」なのか
戦後80年で築かれた「戦争なき世界」の二つの柱が崩れつつある。国連の忘れられた成功の歴史と、日本が直面する新たな国際秩序の現実を読み解く。
1億人。二度の世界大戦が奪った命の数です。その惨禍の記憶から生まれた二つの誓いが、戦後80年の「長い平和」を支えてきました。「侵略戦争は許さない」「帝国主義は終わらせる」——この二本の柱の上に、国際連合は1945年に建てられました。しかし今、その柱は音を立てて崩れ始めています。
「長い平和」が終わろうとしている
国連財団のシニアフェローであり、元ミャンマー政府顧問でもあるタン・ミン・ウー氏が5月21日、Foreign Affairs誌に寄稿した論文は、静かな筆致でありながら、深刻な問いを突きつけています。
氏の主張の核心はこうです。世界は今、「リベラルな国際秩序の崩壊」を嘆いていますが、それは問題の本質を見誤っている。アメリカの軍事・経済的覇権に依拠した冷戦後の秩序と、1945年に国連憲章が体現した「戦争なき世界・帝国なき世界」という二つの確信は、別物だからです。むしろ、アメリカ主導の秩序は、その二つの確信を時に損なってきたとも言えます。
症状は既に明らかです。ロシアによるウクライナ侵攻、米・イスラエルによるイランへの軍事攻撃、スーダン・パレスチナでの泥沼の紛争。核保有国は軍備を増強し、戦略的軍備管理条約は失効し、核施設への直接攻撃さえ現実となりました。外交は「最も貧血した形」でしか機能せず、国連の平和構築機能は事実上、機能停止に近い状態です。
国連が輝いた時代——忘れられた成功の記録
ここでタン・ミン・ウー氏が強調するのは、「忘れられた歴史」です。
1956年のスエズ危機を思い出してください。スウェーデン出身の事務総長ダグ・ハマーショルドは、ほぼ一夜にして国連初の平和維持軍を展開し、フランス・イスラエル・イギリスがエジプトへの侵攻から「体面を保って撤退」できる出口を作りました。1958年のレバノン危機でも、国連の監視団が米軍撤退の条件を整えました。
当時の国連事務総長には軍隊がありませんでした。しかし、「公正な仲介者」としての道義的権威がありました。その権威は、二つの確信——侵略戦争の禁止と脱植民地化——が世界の政治の中心に生き続けていたからこそ、機能したのです。
アジア・アフリカの新興独立国が国連に加わった1950〜60年代、インド・ガーナ・インドネシアといった国々は、主権の平等と人間の尊厳という憲章の言葉を文字通りに受け取り、それを政治的要求へと転換しました。1960年には国連総会が「植民地独立付与宣言」を採択し、国連は帝国主義に対して明確に反対の立場を取りました。
なぜ今、この論文が重要なのか
タン・ミン・ウー氏の診断で最も注目すべきは、危機の原因についての見立てです。問題は「制度の欠陥」ではなく、「確信の喪失」だと言います。かつて国連の平和構築を可能にしたのは、完璧な制度があったからではない。その制度を動かしていた確信——戦争は許さない、帝国は許さない——が、国家と市民の間で政治的に生きていたからだ、と。
今必要なのは、その確信を政治的に復活させることです。そのためには、それを体現する政治的リーダーシップ、行動で示す新たな国連事務総長、そして「戦争も帝国もない世界」を再び求める市民社会が必要だと、氏は訴えます。
日本にとって、この議論は他人事ではありません。日本は戦後、「平和国家」として国連中心主義を外交の柱の一つに据えてきました。しかし近年、安全保障環境の変化を受けて防衛費をGDP比2%へと倍増させ、「反撃能力」の保有も決定しました。国連の集団安全保障機能への信頼が揺らぐ中で、日本は二つの相反する圧力に挟まれています。一方では、現実的な安全保障強化の必要性。もう一方では、平和憲法と国連中心主義という戦後外交の根幹。
さらに、日本は長年、国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指してきました。タン・ミン・ウー氏が「安保理の理事国構成改革は重要だが、それより先に確信の復活が必要だ」と述べているのは、日本の外交戦略にとっても示唆深い指摘です。制度を変える前に、その制度を支える価値観を取り戻さなければ、改革は空洞化するという警告です。
各ステークホルダーの視点
アメリカの現政権の立場から見れば、国連は機能不全の官僚機構であり、米国の主権と行動の自由を制約するものです。NATOや国際機関からの距離を置くことは、「アメリカ・ファースト」の論理と整合しています。
中国とロシアは、国連の枠組みを自国に都合よく利用しつつ、安保理の拒否権で西側の動きを封じるという戦略を取っています。「多極化した世界秩序」を標榜しながら、実質的には自国の影響圏拡大を進めています。
グローバルサウスの国々、特にアフリカ・中東・東南アジアの国々は、「戦争なき世界・帝国なき世界」という原則に今も強い支持を持っています。しかし彼らは同時に、欧米主導の「ルールに基づく秩序」が自分たちに対して一貫して適用されてこなかったことへの不信感も抱えています。
日本の企業・産業界にとっては、国際秩序の不安定化は直接的なリスクです。トヨタ・ソニー・三菱商事のようなグローバル企業は、中東・欧州・アジアを結ぶサプライチェーンを持っています。イラン情勢の緊迫化はホルムズ海峡を通じた原油輸送に影響し、ウクライナ紛争は穀物・エネルギー価格を押し上げ続けています。「平和の配当」が失われつつある今、企業のリスク管理コストは静かに上昇しています。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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