ホルムズ海峡閉鎖が突きつけた現実:ASEANの石油依存
第48回ASEANサミットでは中東紛争による原油供給ショックが最大の議題に。ASEAN諸国が輸入する原油の66%が影響を受け、日本企業や東南アジア市場にも波及する構造的リスクを読む。
66%——これは、ASEANが中東に依存している原油輸入の割合だ。2026年2月末にイランをめぐる紛争が勃発し、ホルムズ海峡が事実上閉鎖されて以来、約7億人が暮らすこの地域は、エネルギー危機の最前線に立たされている。
セブ島で何が議論されたか
5月7日、フィリピン・セブ島で開幕した第48回ASEANサミットおよび関連会合において、中東情勢の経済的余波が最大の議題となった。フィリピン外務長官のマ・テレサ・ラサロ氏がASEAN外相会議(AMM)の議長を務め、その冒頭演説でイラン紛争がエネルギー供給、貿易ルート、食料サプライチェーンに深刻な打撃を与えていると訴えた。
「この危機は輸送、観光など複数のセクターを混乱させ、西アジアに滞在する数百万人のASEAN国民を危険にさらしている」とラサロ氏は述べた。
各国政府の対応は様々だ。一部の国々は石炭火力発電を増強し、多くの国がエネルギー節約措置を導入した。さらに、ロシアを含む代替供給国への切り替えも進んでいる。フィリピンはASEAN議長国として、すでに3月13日と4月13日の2回、緊急外相会合を招集しており、米国・イスラエル・イランへの対話と緊張緩和を呼びかけてきた。
今回の会合では具体的な対応策として、域内の石油融通を目的とする「地域石油共有フレームワーク協定」の策定と、長年構想されてきた「ASEAN広域電力グリッド計画」の実施加速が議題に上った。また、外相・経済相合同会議では、閣僚レベルの「危機コミュニケーション・プロトコル」の整備も議論された。
ミャンマー問題:エネルギー危機の陰で
エネルギー問題が全体の議論を吸収しかねない中、ミャンマー情勢も重要な焦点となった。ラサロ氏はASEANのミャンマー特使として、同国の政治・人道状況について各国外相に報告した。
2021年2月のクーデター以降、ミャンマーでは軍と民族武装勢力・抵抗組織との間の戦闘が続いており、国連によれば現在約360万人が国内避難民となっている。2026年3月は、クーデター以降で民間人の犠牲者が最も多い月となり、ASEAN市民社会ネットワーク「ALTSEAN-Burma」によれば軍の攻撃で518人が命を落とした。
一方、クーデターを主導したミン・アウン・フライン氏は先月、軍主導の議会によって大統領に任命され、「文民政府」として国際社会との関係正常化を目指す姿勢を打ち出している。その一環として、拘束中のアウン・サン・スー・チー氏の刑期を短縮し、刑務所から自宅軟禁に移したと主張している。
ASEAN事務局長のカオ・キム・フン氏は、ASEAN外相たちがミャンマー外相との仮想会議の開催に合意したと明らかにした。軍政側が正常化に向けた働きかけを行う場になるとみられる。フィリピンはラサロ氏が特使としてスー・チー氏と面会できるよう、ミャンマー当局に求めている。
日本企業と東南アジア:見えてきた構造的リスク
この問題は、日本にとっても対岸の火事ではない。トヨタ、パナソニック、三菱商事など、東南アジアに生産・販売拠点を持つ日本企業は、現地のエネルギーコスト上昇と物流の混乱に直面しつつある。ASEAN域内の燃料価格が上昇すれば、製造コストが押し上げられ、最終的には日本国内の消費者価格にも影響が及ぶ可能性がある。
さらに、ASEANが代替供給源としてロシア産石油への依存を高めることは、西側諸国との関係において微妙な問題をはらむ。日本政府はG7の枠組みの中でロシアへの制裁に参加しており、ASEAN諸国がロシアとのエネルギー取引を拡大する流れは、日本外交の立場を複雑にしかねない。
ASEANが推進する広域電力グリッド計画が実現すれば、再生可能エネルギーのポテンシャルが高いメコン川流域諸国(ラオス、ベトナムなど)からの電力融通が可能になる。この分野では日本のインフラ輸出戦略との接点も生まれうる。
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