Stripe卒業生が作った企業認証スタートアップ、30億円調達の意味
Stripe出身者が設立したDunaが€30M調達。企業認証の効率化から「デジタルパスポート」構想まで、B2B取引の未来を変える可能性を探る。
€30億円。これは、元Stripe社員が設立した企業認証スタートアップDunaが調達した資金額です。しかし、この数字が示すのは単なる資金調達の成功ではありません。B2B取引における「身元確認」という、地味だが不可欠な領域に潜む巨大な機会の証明なのです。
Stripe出身者が見つけた「隠れた金脈」
Dunaの共同創設者であるDuco van LanschotとDavid Schreiberは、Stripeでの経験を通じて一つの課題を痛感していました。企業顧客のオンボーディング(新規登録・審査プロセス)があまりにも非効率で、多くの企業が途中で離脱してしまうという問題です。
現在、フィンテック企業が新しい企業顧客を受け入れる際、身元確認や詐欺防止のために複雑な手続きが必要です。書類の提出、審査の待機時間、複数のシステムでの重複した認証作業。これらが積み重なって、せっかくの顧客を失う原因となっていました。
Dunaは、Plaidなどの顧客企業に対して、この企業オンボーディングをより効率的に行うソリューションを提供しています。興味深いことに、Stripe自体はDunaの顧客ではありませんが、同社の現COOMichael Cooganや元CTODavid Singletonらが個人投資家として参加。さらに競合のAdyen幹部まで投資に加わっているのです。
なぜ競合他社が投資するのか
一見不思議に思えるこの現象には、明確な理由があります。van Lanschot氏によれば、企業認証は「企業ごとに細かな設定変更が必要で、StripeやAdyenのような大手が別製品として切り出すには適さない」領域だからです。
大手フィンテック企業にとって、企業認証は重要だが差別化要因にはならない機能。むしろ専門企業に任せて、自社は本業に集中したいというのが本音でしょう。これこそがDunaが狙う「ニッチだが不可欠」な市場なのです。
「デジタルパスポート」構想の野心
Dunaの真の野心は、単なる企業認証の効率化にとどまりません。同社が描くのは、企業が一度認証を受ければ、その情報を複数のプラットフォームで再利用できる「グローバル信頼インフラ」の構築です。
「ドイツの経費管理プラットフォームMossでのオンボーディング情報を、Plaidや銀行口座開設でも使い回せる世界」。van Lanschot氏が語るこのビジョンは、B2B版の「シングルサインオン」とも言えるでしょう。
今回の資金調達を主導したCapitalGのゼネラルパートナーAlex Nichols氏は、「ネットワーク効果」の可能性を評価したと語ります。確かに、より多くの企業と金融機関がこのネットワークに参加するほど、全体の価値は指数関数的に増大します。
日本市場への示唆
日本では、企業間取引における書面主義や印鑑文化が根強く残っています。みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行などメガバンクでも、企業口座開設には多くの書類と時間が必要です。
Dunaのようなソリューションが日本に導入されれば、特に中小企業のデジタル化促進に大きな影響を与える可能性があります。人手不足に悩む日本企業にとって、オンボーディング業務の自動化は切実なニーズでしょう。
一方で、日本特有の規制環境や商慣習への適応も課題となります。Dunaが描く「デジタルパスポート」構想が日本で実現するには、金融庁をはじめとする規制当局との綿密な協議が不可欠です。
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