「タコ理論」が映すトランプの危険な賭け
イランとの停戦を受け、「トランプは常に逃げる」というTACO理論が再注目されている。だが今回の危機は、その楽観論が持つ根本的な危うさを露わにした。日本経済への影響とともに読み解く。
「また逃げた」——投資家たちはそう呟いた。だが今回ばかりは、その言葉を口にするのに、少し間があった。
2026年4月6日、ドナルド・トランプ大統領はイランとの停戦を受け入れた。開戦から1か月以上、多くの指導者と数百人の民間人が命を落とし、中東全体が揺れ、世界経済に深刻な打撃を与えた末のことだった。これを受けて金融市場では、あの有名な略語が再び飛び交った——「TACO」、すなわち「Trump Always Chickens Out(トランプは常に逃げる)」。
TACOとは何か、なぜ生まれたのか
この言葉を最初に広めたのは、フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ロバート・アームストロングだ。2025年の関税騒動の際、トランプが極端な脅しを繰り返しながらも最終的に後退するパターンを観察し、「大統領は政治的・経済的な痛みに対する耐性が低い」と分析した。
この見立ては、特に投資家の間で「安心材料」として機能した。トランプがどれほど過激な言葉を使おうとも、市場が動揺し始めれば必ず引き下がる——そう信じることで、パニックを回避できるという論理だ。アームストロング自身、TACOを「トランプが権威主義的なイデオロギーの怪物ではなく、才能あるリアリティTVスターに過ぎないという見方への解毒剤」と表現した。
しかし今回のイラン危機は、その「解毒剤」が効かない場面があることを示してしまった。
「ソフトTACO」という現実
原文を書いた論者が提唱するのが、「ハードTACO」と「ソフトTACO」の区別だ。
ハードTACOとは「トランプは常に逃げる」という絶対的な楽観論。これに対しソフトTACOとは、「最終的には引き下がるが、その前に相当な損害を与える可能性がある」という、より慎重な読み方だ。
トランプ第2期を振り返ると、このソフトTACOのパターンが繰り返されてきた。DOGE(政府効率化省)では、イーロン・マスクに連邦官僚機構を荒らし回らせた後、批判が高まると「メスではなくメスで切れ」と指示を修正した。しかし連邦職員はすでに約35万人が解雇・退職・辞職し、全体の10%が失われていた。
「解放の日」関税でも同様だ。2025年4月2日に発動された高率関税は市場を混乱させ、90日間の一時停止が宣言された。だが実効関税率は就任時の2.3%から現在11.05%へと依然として高止まりしている。
ミネアポリスでの移民強制執行でも、2人のアメリカ市民が移民当局に射殺されて初めて、トランプは方針を転換した。引き下がるまでに、何か月もかかった。
イランが示す「ソフトTACO」の限界
問題は、イランの場合は相手がいることだ。
トランプが自ら引き起こした過去の危機——関税、DOGE、移民政策——はすべて、最終的にトランプが「やめる」と決断すれば収束できるものだった。しかしイランはミサイルと無人機と機雷を持っており、独自の「痛みの閾値」を持つ主権国家だ。
ニューヨーク・タイムズの報道によれば、タッカー・カールソンが攻撃を思いとどまるよう説得しようとした際、トランプは「大丈夫だ。いつもそうなるから」と答えたという。自分がいつでもソフトTACOを打てるという確信——それが今回、最も危険な前提となった。
停戦は成立したが、水曜日の朝にも散発的な攻撃が続いた。核物質、ホルムズ海峡、その他の問題で恒久的な合意に達することは容易ではない。そして合意が遠のけば、再び攻撃の誘惑が訪れるかもしれない。
日本経済への静かな打撃
日本の読者にとって、この問題は決して「遠い世界の話」ではない。
ホルムズ海峡は、日本が輸入する原油の約9割が通過する生命線だ。イラン危機の長期化は原油価格を押し上げ、エネルギーコストに敏感なトヨタ、新日本製鐵、東レなどの製造業に直接影響する。円安と輸入インフレが家計を圧迫している現在、さらなるエネルギー価格の上昇は消費者信頼感を一層冷やしかねない。
また、日本政府はトランプ政権との関税交渉を継続中だ。「ソフトTACO」の論理が正しければ、粘り強く交渉すれば譲歩を引き出せる可能性がある。しかし同時に、交渉が長引く間にも実質的な経済的損害が積み重なっていくことも、今回のイラン危機が示している。
外務省や経済産業省の担当者たちは今、TACO理論の「どこまでを信頼するか」という、非常に難しい判断を迫られているはずだ。
記者
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