「あなたのために」禁じる国家は正しいか
英国議会が2009年以降生まれへの永続的タバコ販売禁止法を可決。個人の身体的自律性と国家の温情主義的介入の境界線を問う、現代自由主義の核心的議論を多角的に分析します。
あなたが65歳になったとき、隣の66歳の友人はタバコを合法的に買えるのに、あなたは買えない。これは近未来のSFではなく、英国議会が可決した法律の現実です。
何が起きたのか
英国議会は今週、2009年以降に生まれたすべての人に対してタバコ製品の販売を永続的に禁止する法律を可決しました。チャールズ国王の裁可を経て正式に成立する見通しです。
この法律の仕組みは独特です。現時点では17歳以下の若者にのみ適用されますが、2009年生まれの人々が成人になっても、その禁止は解除されません。つまり、彼らが30歳になっても、50歳になっても、生涯にわたってタバコを合法的に購入することができないのです。保健大臣のウェス・ストリーティング氏は「英国の子どもたちは、依存症と害から守られた、史上初の喫煙ゼロ世代になる」と述べています。
法律の支持者たちの意図は明確です。喫煙を始める前の世代に禁止を課すことで、ニコチン依存症による早期死亡を減らすという公衆衛生上の目標です。英国では現在も毎年、喫煙関連疾患で多くの命が失われており、医療制度への負担も深刻です。
なぜ今、この議論が重要なのか
しかし、この法律が提起する問いは、タバコの煙よりもはるかに複雑に広がっています。
問題の核心は「成人が自分自身を傷つける選択をする権利」を国家が制限できるかどうか、という近代自由主義の根本的な問いです。哲学者ジョン・スチュアート・ミルが19世紀に提唱した「他者危害原則」——国家が個人の行動に介入できるのは、他者に害を与える場合のみ——に照らせば、この法律は明らかにその境界を越えています。
英国の著名な画家デイヴィッド・ホックニーは83歳で、16歳からタバコを吸い続けています。「健康への執着は不健全だ。長寿を人生の目標にすることは、生を否定することだ」と彼は述べています。寿命と生活の質のバランスは、極めて個人的な問題です。国家がその答えを一律に決める権限を持つべきでしょうか。
法律の設計にも技術的な問題があります。20年後、47歳の人はタバコを買えないのに、48歳の友人は買える。コンビニの店員は高齢者の年齢確認を求められることになります。こうした「年齢による差別」の問題は、法の平等原則とも緊張関係にあります。
さらに実効性の問題もあります。1920年代の米国の禁酒法が「ジンのない世代」を生み出さなかったように、タバコの闇市場が拡大し、規制されていない、より危険な製品が流通する可能性があります。
日本社会との接点
この議論は、日本にとって決して対岸の火事ではありません。
日本は世界最高水準の高齢化社会であり、医療費の増大は国家財政の深刻な課題です。国民健康保険制度を維持するために、個人の不健康な行動を規制することは「合理的」に見えるかもしれません。実際、日本でも受動喫煙防止法(2020年全面施行)により、飲食店内での喫煙規制が大幅に強化されました。
しかし、受動喫煙規制と今回の英国の法律には本質的な違いがあります。前者は「他者への害」を防ぐもの、後者は「自分自身への害」を防ぐものです。この境界線を越えた瞬間、国家の介入の論理はどこまで広がりうるでしょうか。
日本では「メタボ健診」制度が2008年から導入され、腹囲が基準を超えた会社員は保健指導を受けることが義務付けられています。これを「健康のための合理的な介入」と見るか、「身体への国家管理の始まり」と見るかは、まさに今回の英国の議論と地続きの問いです。
また、日本の喫煙率は長期的に低下傾向にあるものの、依然としてJT(日本たばこ産業)は国内外で大きな影響力を持つ企業です。英国の規制強化が欧州全体に波及し、さらにアジア市場の規制論議を刺激する可能性も否定できません。
多様な視点から
公衆衛生の専門家たちは、喫煙が個人の選択にとどまらないと主張します。医療費は社会全体で負担されており、喫煙者の治療費は非喫煙者にも転嫁されます。この観点では、喫煙は純粋に「自分だけの問題」ではありません。
一方、自由主義的な立場からは、この論理の危険性が指摘されます。もし医療費への影響を理由に個人の選択を規制できるなら、肥満につながる食事、運動不足、ストレスの多い仕事、さらには危険なスポーツも規制対象になりえます。国家の温情主義的介入に、論理的な終着点はあるのでしょうか。
文化的な文脈でも解釈は分かれます。集団の利益のために個人の行動を調整することを比較的受け入れやすい東アジアの文脈と、個人の自由を絶対視する欧米リベラリズムの伝統では、この法律への評価は大きく異なります。しかし、その「集団の利益」を誰が、どのように定義するのかという問いは、どの文化圏でも避けられません。
記者
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