「愚かな戦争」が変えたアメリカ民主党
イラク戦争の教訓がいま蘇る。トランプ政権のイラン攻撃に対し、民主党議員たちが一斉に反戦姿勢を示す背景と、その政治的意味を読み解く。
81%。これは今週発表された世論調査で、イランとの戦争を「正当化されない」と答えた民主党支持者の割合です。わずか7%が賛成に回りました。この数字だけを見ても、アメリカ政治における何かが根本から変わったことがわかります。
オバマの「あの演説」から始まった物語
時計を2002年10月に戻しましょう。バラク・オバマはまだイリノイ州の州上院議員に過ぎませんでした。シカゴで開かれた集会で、彼はイラク戦争への反対を明確に表明します。「私はすべての戦争に反対しているわけではない。私が反対するのは、愚かな戦争だ」と。
この演説が注目されたのは、6年後のことでした。2008年の民主党大統領候補選挙戦で、ヒラリー・クリントン上院議員との一騎打ちになったとき、オバマはこの「先見の明」を最大の武器として使いました。クリントンを含む多くの民主党議員が2003年のイラク侵攻を承認する議会投票で賛成票を投じていたのに対し、オバマは一貫して反対の立場を取り続けていたからです。
選挙陣営はオバマの反戦発言を集めたビデオを制作し、支持者が彼の2002年の演説を朗読する映像を公開しました。これはアメリカ政治における「バイラル動画」の最初期の事例の一つとも言われています。イラク戦争に失望した民主党支持者たちはオバマに流れ、彼はクリントンをわずかな差で破り、大統領の座を射止めました。
2026年、歴史は繰り返すのか
それから20年以上が経った2026年3月。ドナルド・トランプ大統領がイランへの軍事攻撃に踏み切ったとき、民主党の反応はかつてとは全く異なるものでした。
ジョージア州選出の上院議員ジョン・オソフは再選出馬を表明する演説で、トランプのイラン政策を真っ向から批判しました。「差し迫った脅威の証拠もなく、外交を尽くすこともなく、明確な目標や事後計画もなく、議会の同意もなく、大統領はアメリカを政権交代のための戦争に引き込んだ」と。
この演説が注目されたのは、その内容よりも「珍しくなかった」という事実です。アリゾナ州選出のイラク戦争帰還兵でもあるルーベン・ガジェゴ上院議員はオバマの言葉を引用して「愚かな戦争」と繰り返し批判。カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムは「不法で危険な戦争」と断言。ニュージャージー州のコリー・ブッカー上院議員は即時撤退を要求しました。親イスラエルロビー団体AIPACが支援する候補者でさえ、今回の戦争には距離を置いています。
なぜ今、これほど一致した反戦論が生まれたのか
この変化には、いくつかの層が重なっています。
まず、イラク戦争という「生きた教訓」があります。2003年当時、アメリカ人の約60%がイラク侵攻を支持し、民主党支持者でも約40%が賛成していました。その状況下で、大統領を夢見る議員たちは賛成票を投じるよう強い圧力を感じていました。ジョン・ケリー、ヒラリー・クリントン、ジョー・バイデン——それぞれ2004年、2016年、2020年の民主党大統領候補——は全員、イラク侵攻を承認する議会決議に賛成票を投じています。そしてその決断は、それぞれの政治キャリアに影を落としました。
次に、トランプ政治の特性があります。トランプが大統領に就任して以来、アメリカ政治は彼の個性を軸に二極化しています。共和党員が彼の政策に反対することが難しくなった分、民主党員が彼の政策を支持することは政治的に「毒」となりました。さらに、ブッシュ政権がイラク戦争前に行ったような、国際社会や国内世論への丁寧な「売り込み」を、トランプ政権は行っていません。これが反対を表明しやすい環境を作っています。
日本にとっての意味
この動向は、日本の安全保障環境とも無縁ではありません。
中東の緊張が高まれば、原油価格への影響は避けられません。日本は原油輸入の約90%を中東に依存しており、トヨタや日産をはじめとする製造業、そして家庭の光熱費にも直接響きます。また、アメリカの軍事的関与が中東に集中することで、東アジアの安全保障体制にどのような影響が出るかも、日本の外交・防衛当局者にとって重要な関心事です。
より長期的な視点では、アメリカの民主党が「反戦」を党のアイデンティティとして確立していくなら、次の政権交代後の米国外交政策が大きく変わる可能性があります。日米同盟の運営においても、その変化を見据えた準備が必要になるかもしれません。
記者
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