名前が語る傷――済州1949年と1998年の記憶
映画「My Name」は、1998年の済州を舞台に、18歳の少年と母親が向き合う歴史的トラウマとアイデンティティの旅を描く。ヨム・ヘランとシン・ウビンが共演する韓国映画の深層に迫る。
ある名前を恥ずかしいと思ったことはありますか?
18歳の少年ヨンオクは、自分の「古臭い」名前を捨てたいと願っています。しかし彼の母チョンスンが抱えているのは、名前よりもはるかに重いもの――1949年の済州島で起きた出来事の、長い間封印されてきた記憶です。韓国映画「My Name」は、この母と息子が1998年の済州を舞台に、それぞれの「過去」と向き合う物語です。
今回公開されたファーストスチールには、二人の間に漂う緊張感と、言葉にならない感情が映し出されています。母を演じるのは、「梨泰院クラス」や「ブラザーフッド」で国際的な評価を得た実力派女優のヨム・ヘラン。息子ヨンオク役には、次世代を担う若手俳優シン・ウビンが抜擢されました。
1949年と1998年――二つの時代が交差する理由
映画の背景を理解するには、済州島の歴史を知る必要があります。1948年から1949年にかけて、済州島では「4・3事件」と呼ばれる武装蜂起と、それに続く大規模な弾圧が起きました。この出来事で推定2万5千人から3万人が犠牲になったとされ、韓国現代史における最も深い傷の一つとして記憶されています。長年、政治的な理由からタブー視されてきたこの歴史が、韓国社会で公式に語られるようになったのは、比較的最近のことです。
映画が設定する1998年という時代も意味深長です。アジア通貨危機が韓国を直撃し、社会全体が揺らいでいたこの時期、人々は自分の「アイデンティティ」を問い直すことを余儀なくされました。少年が自分の名前を嫌うという個人的な葛藤と、母親が掘り起こそうとする集合的な歴史的記憶――「My Name」はこの二つを、一つの家族の物語として重ね合わせています。
K-映画が「歴史」を語るとき
近年の韓国映画は、単なるエンターテインメントを超えて、歴史的・社会的テーマを世界の観客に届ける力を持つようになりました。「パラサイト」がアカデミー賞を受賞して以来、韓国映画への国際的な注目度は格段に上がっています。その文脈で見ると、「My Name」が済州4・3事件という繊細なテーマを取り上げることは、K-コンテンツ産業の成熟を示す一つの指標とも言えます。
日本の観客にとっても、この映画は特別な響きを持つかもしれません。日本でも、歴史的な集合的トラウマが家族の中でどのように受け継がれるかという問いは、決して遠い話ではありません。沖縄戦、広島・長崎、あるいは関東大震災――それぞれの「語られなかった記憶」が、世代をまたいでどう伝わるか。「My Name」が描く済州の物語は、そうした普遍的な問いに接続しています。
また、ヨム・ヘランという女優の存在も見逃せません。彼女は主役を張るタイプではなく、長年「助演の名手」として知られてきました。しかし近年は、彼女自身が作品の中心に据えられるケースが増えています。これは韓国映画・ドラマ業界において、中年女性俳優の役割が変化しつつあることを示しているとも読めます。
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