アーベの分裂：330億ドル規模のDeFiプロトコル、DAO対開発企業で支配権巡り激突

DeFi（分散型金融）の巨人が、自らのアイデンティティを巡る岐路に立たされています。総資産330億ドル以上を誇る大手レンディングプロトコル「Aave」のコミュニティが、プロトコルのブランドと関連資産の管理権を巡って真っ二つに割れているのです。この対立は、トークン保有者が運営するDAO（分散型自律組織）と、中央集権的な開発企業「Aave Labs」の関係性を問う、根深い問題に発展しています。

対立の核心：ブランド資産は誰のものか

今回の論争の引き金となったのは、Aaveが取引実行ツール「CoW Swap」を統合した際、スワップ手数料がDAOの金庫ではなくAave Labsに流れたことでした。Aave Labs側はインターフェース開発の対価だと主張しましたが、批判的な立場の人々は、これは商標やドメイン、SNSアカウントを含む「Aaveブランド」の支配権という、より大きな問題の表れだと指摘しています。現在、ブランド資産の所有権をDAOに移管するかどうかの投票が進行中ですが、直近の集計では約58%が移管に反対票を投じている状況です。

Labs派の主張：迅速な開発と競争力

Aave Labsによるブランド管理の継続を支持する人々は、プロトコルが大規模に競争していくためには同社の実行力が不可欠だと主張します。元Aave Labsの従業員であるNader Dabit氏はX（旧Twitter）で、「DAOは構造的に、競争力のあるソフトウェアを迅速に開発できない」と述べ、製品に関する全ての決定がガバナンス提案となり、機敏な動きが取れなくなると警鐘を鳴らしました。また、明確な法人格を持つAave Labsが窓口となることで、伝統的な金融機関との提携も円滑に進むという利点も指摘されています。

DAO派の主張：リスクを負う者が所有すべき

一方、DAOへのブランド移管を支持する側は、経済的リスクを負うトークン保有者が所有権を持つべきだと反論します。Aave-Chan Initiativeの創設者であるMarc Zeller氏は、「DAOはリスク管理、アップグレード、収益を生み出す『エンジン』であり、ブランド資産は『店の看板』だ」と例えました。彼らの主張は、Aave Labsを排除することではなく、あくまでDAOが監督する多数の貢献者の一つとして位置づけるべきだというものです。看板（ブランド）を単一の民間企業が管理し続けると、エンジン（DAO）の長期的な方向性に対するトークン保有者の影響力が制限される、という構造的な懸念が示されています。