試練の2025年を乗り越えたフィリピン・マルコス大統領、2026年は正念場に
2025年をスキャンダルや経済問題で辛うじて乗り切ったフィリピンのマルコス大統領。専門家の分析によれば、2026年はASEAN議長国としての手腕が問われる、政権の浮沈をかけた正念場の年となる。
崖っぷちの政権運営
2025年を辛うじて乗り切ったフィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領にとって、2026年は自身の政治的遺産を決定づける「正念場」の年となりそうです。専門家の分析によれば、相次ぐスキャンダルや期待外れの経済成長、そして前政権からの政治的圧力に直面し、マルコス政権は発足以来最大の危機に瀕しています。
背景:かつての同盟、現在の政敵
マルコス大統領は2022年の選挙で、前大統領の娘であるサラ・ドゥテルテ氏を副大統領候補として迎える「ユニチーム」を結成し圧勝しました。しかし、政権発足後、南シナ海問題への対応や国内政策を巡り両陣営の亀裂が深刻化。現在、ドゥテルテ派は次期選挙を見据え、マルコス政権への批判を強めています。
内憂外患の1年
マルコス政権の2025年は、まさに「内憂外患」でした。国内では司法制度の信頼性を揺るがす事件が注目を集めたほか、複数の閣僚が関与したとされる汚職疑惑が浮上し、政権への支持を侵食しました。経済面では、期待を下回る成長率が続いたことで、フィリピン中央銀行は景気刺激策として複数回の利下げ(rate cut)に踏み切らざるを得ませんでした。
政治的には、影響力を保持するドゥテルテ前大統領とその支持勢力からの揺さぶりが最大の脅威です。専門家は、2026年がマルコス大統領にとって、ドゥテルテ派の政治的復活を阻止するための最後のチャンスになる可能性があると指摘しています。
起死回生の鍵はASEAN議長国
こうした逆境の中、マルコス大統領にとって最大の好機となるのが、2026年にフィリピンが東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務めることです。議長国として地域的な課題、特に南シナ海問題を主導することで、国内の批判をかわし、国際社会における指導力を示す絶好の機会となります。
フィリピン大学アジアセンターの上級講師であるリチャード・ヘイダリアン氏は、日経アジアへの寄稿で「2026年はマルコス大統領にとって、まさに『伸るか反るか』の年になるだろう」と分析しています。
議長国としての成功は、日本や米国といった主要パートナーとの関係を強化し、経済協力を引き出す上でも重要です。マルコス大統領がこの外交の舞台を活かし、国民の信頼を回復できるかどうかに、政権の未来がかかっています。
PRISM Insight
マルコス大統領が直面する課題は、多くの東南アジア諸国が共有するジレンマを象徴しています。それは、国内のポピュリスト勢力(ドゥテルテ派の遺産)と対峙しつつ、米中対立という複雑な地政学的環境の中で国益を最大化するという綱渡りのような国家運営です。マルコス政権の行方は、フィリピン一国に留まらず、インド太平洋地域の安定を占う試金石となるでしょう。
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