KATSEYEミーガンの失読症ジョークが炎上。親密さと無神経さの境界線はどこにあるのか?
HYBEの新星KATSEYEのインタビュー動画が炎上。メンバーの失読症ジョークが、ファン文化における親密さとエイブリズムの議論を巻き起こした背景を分析。
「彼女は読めない」――たった一言のジョークが世界的な議論に
HYBEとGeffen Recordsが送り出すグローバルガールズグループ「KATSEYE」。デビュー前から大きな注目を集める彼女たちですが、最近、過去のインタビュー動画がSNSで再燃し、エイブリズム(障害者差別)とファン文化の境界線をめぐる激しい議論を巻き起こしています。発端は、メンバーのミーガンが抱える失読症(ディスレクシア)に関する、メンバー間のやり取りでした。この一件は、単なるアイドルの失言問題に留まらず、現代の「パラソーシャル関係(ファンが抱く一方的な親密さ)」が抱える危うさを浮き彫りにしています。
なぜこの動画はバイラル化したのか?
- 当事者の不快感:インタビュー中、ミーガンが自身の失読症をジョークにされ、明らかに不快感を示したことが視聴者に衝撃を与えました。
- メンバー間の温度差:不快に思うミーガンと、状況を理解せず笑い続けるメンバー、そして気まずさを察して素早く話題を転換するメンバーの対照的な反応が、議論の的となりました。
- ファンから当事者への拡大:当初はメンバーの行動への批判が中心でしたが、次第に失読症を持つ当事者たちが「自分たちの経験」を語り始め、議論が深化しました。
- 「内輪ネタ」の公共化:メンバー間のジョークが、ファンによって何度も再生産・拡散されることで、ミーガンにとっては「不特定多数の他人から障害を揶揄される」状況へと変化したことが問題視されています。
インタビューで何が起こったのか?
発端はMTVのインタビュー企画
問題となったのは、MTV UKとのインタビュー動画です。企画は、メンバーが過去に発言したセリフを読み上げ、誰が言ったかを当てるというものでした。その中で「私、読めないの(I can't read)」というセリフが出た際、メンバーのマノンが即座に「ミーガンだ」と指差しました。このセリフは、ミーガン自身が過去のライブ配信で、自身が失読症であることを明かす文脈で発したものでした。
しかし、このやり取りに対するミーガンの反応は、いつものユーモラスな彼女とは異なりました。彼女は「はいはい!わかったよ!彼女は読めない。最高に面白いね!」と、明らかに皮肉のこもったトーンで苛立ちを見せました。一部のメンバーは笑っていましたが、ユンチェはすぐに異変を察知し、次の質問へと促しました。この一連の流れが、インタビュー公開から1ヶ月以上経ってX(旧Twitter)で拡散され、大論争へと発展したのです。
世界のファンの反応:共感、批判、そして内省
この動画は世界中のファンの間で多様な反応を引き起こしました。特に、失読症の当事者からの声が、議論に深みを与えています。
- 「学習障害が面白いことだったなんて、いつから?もし私がミーガンだったら、手が出てるかもしれない。」(Xユーザー @katsarangsuki)
- 「グループを抜けるかもね、私なら。」(Xユーザー @jeannesbbg)
- 「ユンチェがミーガンのために疲弊している。じゃあミーガン本人はどれだけ疲れているか想像してみて…」(Xユーザー @narkl315_)
- 「誰かが自分の失読症について冗談を言ったからといって、他人がその失読症を馬鹿にしていいということにはならない。常識が失われた通貨になった世界では、これも言わなきゃ分からないのか。」(Xユーザー @agustdeepthroat)
- 「失読症の当事者として言わせてもらうと、自分でジョークを言ったり、親しい友達と冗談を言い合ったりするのと、ほとんど知らない他人から冗談を言われたり見下されたりするのは全く違う。…なぜか失読症って、いつも非識字や頭の悪さと結びつけられるんだよね。」(Xユーザー @tdcsvt)
- 「失読症を持つ者として、これは本当にリアルな話。たった一つ読み間違えて、一度ジョークを言っただけで、突然誰もがあなたのことをどれだけ馬鹿かをジョークにし始めるんだから。」(Xユーザー @FRANKlESTElNN)
PRISM Insight:ファンはどこまで「身内」なのか? パラソーシャル関係の罠
今回のKATSEYEをめぐる炎上が示唆するのは、現代のファン文化における深刻なパラドックスです。SNSやライブ配信を通じて、アイドルとファンはかつてないほど親密な関係を築いています。ファンはアイドルの日常や本音に触れ、まるで親しい友人のように感じる「パラソーシャル関係」を深めていきます。
この親密さこそが、K-POPのグローバルな成功を支える原動力の一つであることは間違いありません。ファンは自分たちを「身内」と感じ、メンバー間の「内輪ネタ」を共有することに喜びを見出します。
しかし、今回の件はその危険性を露呈させました。メンバー同士では許されるかもしれないジョークも、一度ファンの手に渡ると、その文脈は剥ぎ取られます。ファンによるジョークの拡散や再生産は、ミーガン本人にとっては「何百万人もの見知らぬ人々から、自身の障害を繰り返し指摘され、笑いものにされる」という、耐え難い状況を生み出します。失読症の当事者たちがSNSで語ったように、「親しい友人とのジョーク」と「他人からの揶揄」の間には、決して越えてはならない一線が存在するのです。
この事件は、KATSEYEのファンだけでなく、すべてのファンコミュニティに対する警鐘です。私たちが応援する対象への「親しみ」が、彼らの尊厳を傷つける「無神経さ」へと転化していないか。ファンは「身内」であると同時に、敬意を払うべき「他人」でもあるという認識が、今ほど求められている時代はありません。デジタルの親密さが加速する中で、人間としての境界線をいかに保つか。それが、これからのファン文化に課せられた大きな課題と言えるでしょう。
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