中東戦争19日目:ホルムズ海峡が世界を揺らす
イスラエルによるイラン高官暗殺後、中東全域に戦火が拡大。ホルムズ海峡の混乱が日本のエネルギー安全保障に直撃する可能性を、多角的な視点から読み解きます。
日本が輸入する原油の約8割が通過するホルムズ海峡で、今、歴史的な緊張が続いています。
イランとイスラエルの戦争が19日目を迎えた2026年3月18日、中東の地図は急速に塗り替えられつつあります。イスラエルの空爆によってイランの安全保障責任者アリー・ラリジャーニーと革命防衛隊傘下のバスィージ司令官ゴラムレザー・ソレイマニが殺害され、テヘランは「報復」を誓いました。イラン外相アッバース・アラグチー氏はアルジャジーラの取材に対し、「米国がこの地域を戦争に引き込んだ責任を負う」と述べ、ペルシャ湾岸全域への攻撃拡大を示唆しました。
何が起きているのか:拡大する「地域戦争」
戦闘はもはやイランとイスラエルの二国間にとどまりません。イラクの武装組織サラヤ・アウリヤー・アルダムが過去15日間でサウジアラビア、クウェート、ヨルダンへ28回のドローン攻撃を実施。バーレーンでは警報サイレンが鳴り響き、カタールの首都ドーハ上空でもミサイルが迎撃されました。ブリティッシュ・エアウェイズはドーハへの便を4月30日まで延長停止しています。
イスラエル側も無傷ではありません。テルアビブ近郊のラマト・ガンでロケット弾攻撃により2名が死亡、集合住宅が大きな被害を受けました。イランの保健省によれば、2月28日以降の米・イスラエルによる攻撃でイラン国内の死者は少なくとも1,444人、負傷者は18,551人に達しています。
レバノンでは、イスラエル軍が2006年の戦争以来最大規模の避難命令を南部住民に発令。ベカー高原のサフマル村では空爆により4人が死亡しました。
なぜ今これが重要なのか:ラリジャーニー暗殺の意味
ラリジャーニーの死は、単なる軍事的打撃以上の意味を持ちます。彼はかつてイランの核交渉チームを率いた実務派外交官であり、「交渉の窓口」として機能してきた人物でした。アナリストたちは、イスラエルが彼を標的にしたことは、外交的解決の回路を意図的に閉ざす狙いがあると指摘しています。戦争を終わらせる「出口」が、今まさに塞がれようとしているのかもしれません。
一方、米国内でも亀裂が生じています。上級テロ対策当局者のジョー・ケント氏が辞表を提出し、「イランは脅威ではない。私たちはイスラエルと強力な米国ロビーの圧力によってこの戦争を始めた」と公言しました。トランプ大統領はNATO同盟国や日本、オーストラリア、韓国がホルムズ海峡封鎖への軍事支援に消極的だとして批判を強めています。
ここに日本への直接的な問いが浮かびます。
日本への影響:エネルギーと経済の岐路
ホルムズ海峡は一時的に通航が制限されましたが、月曜日時点で非イラン船舶8隻の通過が確認され、わずかながら再開の兆しが見えています。しかしこれは「正常化」ではなく「小康状態」に過ぎません。
日本にとって、この海峡の閉鎖リスクはエネルギー安全保障の急所です。原油価格の急騰は製造業のコストを押し上げ、トヨタや新日本製鐵のようなエネルギー集約型産業に直撃します。また、日本企業が中東に持つインフラ投資や建設プロジェクトも不透明感が増しています。
興味深いのは、ウクライナが200人以上の対ドローン専門家を中東各国に派遣しているという事実です。ロシアとの戦争で培ったドローン防衛の知見が、今度は中東の空を守るために使われています。地政学的な連鎖反応は、私たちが想像する以上に複雑に絡み合っています。
イラクはホルムズ海峡の混乱を受け、クルド自治区経由でトルコのジェイハン港への石油輸出ルートを再開しました。エネルギー供給網の「迂回」が始まっており、長期的には中東の地政学的地図そのものを書き換える可能性があります。
各国の立場:それぞれの計算
サウジアラビアはリヤドでアラブ・イスラム諸国外相緊急会議を開催しています。表向きは「連帯」ですが、その内実は複雑です。サウジは米国との安全保障関係を維持しながら、イランとの全面衝突も避けたい。湾岸諸国が「被害者」として国際社会に訴える立場を選んでいるのは、この微妙なバランスの表れです。
FIFAはイランの要請を退け、2026年ワールドカップの試合会場を米国からメキシコへ変更しないと発表しました。スポーツが政治から切り離されるべきか、あるいはこの決定自体が政治的メッセージなのか——様々な解釈が可能です。
日本政府は現時点で明確な立場表明を避けています。エネルギー安全保障と同盟関係(日米安保)の間で、どのような外交的立ち位置を取るかは、今後の重要な試金石となるでしょう。
記者
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