インドが中国投資を6年ぶりに解禁——「警戒」と「実利」の間で
インドが中国からの投資規制を緩和。資本財・電子機器・太陽光部品などに60日間の迅速審査制度を導入。日印中の経済関係が再編される中、日本企業のサプライチェーン戦略にも影響が及ぶ可能性がある。
「中国資本はいらない」と言い続けたインドが、6年越しに扉を開いた。その決断は、理念より現実が勝ったことを意味するのだろうか。
何が起きたのか
インド政府は2026年3月11日、閣議声明を通じて、陸上国境を接する国々——中国を含む——からの外国直接投資(FDI)に対し、迅速審査制度を新たに導入した。対象となるのは資本財、電子機器、太陽光発電部品などの特定セクターで、インド居住者が過半数の株式を保有していることを条件に、60日以内に審査を完了させるという内容だ。
さらに、議決権を伴わない受益的所有権が10%以下の投資家については、一定の規制条件を満たせば自動的に認可される仕組みも設けられた。
この措置は、2020年4月に導入された「プレスノート3」と呼ばれる規制の修正にあたる。当時、インド政府はパンデミックに乗じた「機会主義的な企業買収」を防ぐためとして、陸上隣接国からの全投資に政府審査を義務付けた。実質的には、同年6月のガルワン渓谷衝突で緊張が頂点に達した中国を標的にした措置と広く受け止められていた。
なぜ今なのか
インドの方針転換は、突然起きたわけではない。2024年後半から、両国は外交チャンネルを静かに再開し、国境での緊張緩和に向けた協議を進めてきた。経済的な文脈も見逃せない。インドが掲げる製造業強化戦略「メイク・イン・インディア」は、電子機器や太陽光パネルの国内生産拡大を目指しているが、中国の資本や技術なしでは供給網の構築が難しい現実がある。
中国国家発展改革委員会・国際協力センターの研究員、毛克疾氏は「サプライチェーン協力の観点から、インドは中国投資を歓迎すべきだ。過去数年間、中国資本を閉め出したことは得策ではなかったとニューデリーも気づいたのではないか」と述べている。
一方、インド政府は「インド居住者による過半数株式保有」という条件を堅持しており、あくまで管理された開放であることを強調している。
日本企業への影響
この動きは、日本のビジネス界にとっても無関係ではない。ソニー、トヨタ、パナソニックなど、多くの日本企業がすでにインド市場に深く関与している。インドが中国資本を取り込みながら製造業の競争力を高めれば、アジアのサプライチェーン全体の地図が書き換わる可能性がある。
とくに太陽光発電部品の分野では、中国メーカーが世界的なコスト優位性を持つ。インドがこの分野で中国との協業を進めれば、日本の再生可能エネルギー関連企業との競争環境が変わりうる。また、日本が戦略的に重視してきた「中国に依存しないサプライチェーン」の構築——いわゆる「チャイナ・プラスワン」戦略——において、インドは主要な代替地として期待されてきた。そのインドが中国資本を受け入れ始めることは、この戦略の前提を揺るがしかねない。
もっとも、インド政府が課した「インド居住者による過半数保有」という条件は、中国企業が経営権を握ることを構造的に防ぐ設計になっている。日本企業にとって、インドが中国の「裏口」になるリスクは限定的とも言える。ただし、技術移転や知的財産の扱いについては、引き続き注意が必要だろう。
記者
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