戦争終結の期待が市場を動かす:11日間の記録的回復
イラン和平交渉への期待からS&P500が史上最高値を更新。わずか11営業日で底値から最高値へ。銀行決算が示す消費者の底堅さと、ソフトウェア株の復活が意味するものとは。
戦争が終わるかもしれない——その期待だけで、市場はここまで動く。
先週、S&P500は7,100ポイントを初めて上回り、Nasdaqは1992年以来最長となる13連騰を達成しました。週間ベースでは、S&P500が4%上昇、Nasdaqが6%上昇、ダウ平均も1.7%上昇しました。しかし数字よりも注目すべきは、その「速さ」です。
バークレイズのストラテジスト、ヴェヌ・クリシュナ氏が指摘したように、S&P500は直近の底値(史上最高値から約9%下落)から最高値まで、わずか11営業日で回復しました。これは少なくとも1990年以降で最速の記録です。
何がこの急回復を引き起こしたのか
今年2月下旬に米国がイランを攻撃して以来、毎週月曜日、投資家たちは「今週の中東情勢は市場にどう影響するか」を読み解くことから週を始めていました。先週も同様に、週明けはパキスタンの首都イスラマバードでの交渉決裂というニュースで始まりました。トランプ大統領はイランの港湾への海上封鎖を宣言。しかし市場はこれを無視するかのように上昇しました。
転換点は火曜日の新たな米イラン交渉、そして水曜日にトランプ大統領が「戦争は終わりに近い」と発言したことでした。木曜日にはイスラエルとレバノンの停戦合意が発表され、金曜日にはイランが「ホルムズ海峡は完全に開放されている」と宣言。エネルギー供給の動脈が再び開かれるとの期待が、市場全体を押し上げました。
和平期待の恩恵を受けたのは、戦争によって売り込まれていたセクターです。ホーム・デポは金曜日だけで3.6%上昇。住宅建設関連株など、エネルギー価格高騰の影響を受けていた銘柄への「ローテーション」が始まりつつあります。ケビン・ウォーシュ新FRB議長のもとで利下げへの道が開ける可能性も、この流れを後押ししています。
ソフトウェア株の復活:AIの脅威は本物か
もう一つの注目点は、売り込まれていたソフトウェア株の急反発です。マイクロソフトは週間で14%上昇、クラウドストライクは11.9%上昇、セールスフォースは10.4%上昇しました。
これらの株が低迷していた背景には、AIスタートアップによる市場シェア侵食への懸念がありました。iSharesのテクノロジー・ソフトウェアETF(IGV)は先週だけで約14%上昇しましたが、それでも2026年の年初来では約20%下落したままです。一週間の急騰が、数ヶ月分の下落を取り戻せたわけではありません。
各社の状況は微妙に異なります。マイクロソフトについては、AIアシスタント「Copilot」への計算資源の割り当てを減らし、クラウドサービス「Azure」に集中すべきとの声があります。クラウドストライクはAIの進化がサイバーセキュリティ需要を高めるという構造的な追い風を持ちます。セールスフォースは座席数ベースのビジネスモデルがAIに侵食されるリスクがあり、5月の決算でマーク・ベニオフCEOがどのような方向性を示すかが注目されます。
銀行決算が示す「普通の消費者」の姿
戦争による市場の混乱が続く中でも、米国の大手銀行の決算は消費者の底堅さを示しました。
JPモルガンによれば、今四半期の消費者支出の伸びは2025年のペースを上回りました。クレジットカードの支出額は前年同期比9%増、延滞率は比較的安定しています。CFOのジェレミー・バーナム氏は「消費者と中小企業は引き続き底堅い」と述べました。
ウェルズ・ファーゴでは新規クレジットカード開設件数が前年同期比約60%増という驚くべき数字を記録。消費者向け銀行・融資部門の収益は6.6%増でした。ただし、同行の全体的な決算は期待を下回る部分もあり、収益が予想を下回ったことで株価は格下げとなりました。
一方、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン、モルガン・スタンレーはいずれも売上高・利益の両面で市場予想を上回りました。特にゴールドマン・サックスは、M&Aなどの投資銀行業務が好調で、「最も注目すべき一行」との評価を受けています。
日本市場への視点:ホルムズ海峡と日本経済の深い関係
ここで、日本の読者にとって特に重要な文脈を考えてみましょう。
ホルムズ海峡は、日本が輸入する原油の約80〜90%が通過する「エネルギーの動脈」です。イランとの緊張が高まった2月以降、エネルギー価格の上昇は日本の製造業、特にトヨタや新日本製鐵のようなエネルギー集約型企業のコストを押し上げてきました。海峡の「完全開放」宣言は、円建てのエネルギーコストにとっても朗報となりえます。
ただし、和平プロセスはまだ始まったばかりです。停戦合意と恒久的な平和は別物であり、市場が「期待」を先取りして動いている側面は否定できません。日本の機関投資家にとって、この急騰をどう評価するかは慎重な判断が求められます。
関連記事
トランプメディアが2026年第1四半期に4億590万ドルの純損失を計上。暗号資産の含み損が主因。売上高わずか87万ドルとの落差が示す「メディア企業」の実態とは。
FRBのパウエル議長が米経済の底堅さを強調し、2%超の成長継続を予測。日本市場や円相場への影響、そして「堅調」という言葉が隠す複雑な現実を読み解きます。
米連邦準備制度理事会が政策金利を4会合連続で据え置き。パウエル議長最後の会合で、原油高とインフレ・景気減速の板挟みが鮮明に。日本経済への影響を読み解く。
パウエルFRB議長の任期終了が近づく中、トランプ政権からの圧力と景気後退リスクが交差する。次期議長人事と金融政策の行方が世界経済を揺さぶる可能性を多角的に分析する。
意見
この記事についてあなたの考えを共有してください
ログインして会話に参加