湾岸諸国のミサイル防衛、迎撃率90%超の裏にある戦略的ジレンマ
イランの攻撃に対し湾岸諸国の防空システムは高い迎撃率を記録。しかし、持続可能性と経済性の課題が浮き彫りに。日本の防衛政策への示唆も。
196発のミサイルのうち181発を迎撃—これは戦術的勝利なのか、それとも戦略的消耗戦の始まりなのか?
過去1週間、湾岸諸国の夜空を横切るミサイルと無人機、そしてそれを迎撃する閃光が住民たちのスマートフォンに記録され続けている。イランがアリ・ハメネイ最高指導者の死を受けて実施した報復攻撃は、普段は見えない防空システムの実態を白日の下にさらした。
見えてきた湾岸防空網の実力
アラブ首長国連邦(UAE)の防空システムは多層構造で設計されている。最上層ではロッキード・マーティン製のTHAAD(終末高高度防衛)システムが弾道ミサイルを直撃破壊方式で迎撃。中層ではレイセオン製のパトリオットミサイルが低高度の脅威に対処する。
数字は印象的だ。UAEでは196発の弾道ミサイルを探知し、181発を撃墜。13発は海に落下し、2発のみが国内に着弾した。迎撃率は92%を超える。
サウジアラビア、カタール、クウェート、バーレーンも同様に高い迎撃率を記録している。カタールでは101発中98発の弾道ミサイルを迎撃した。
戦術的成功が隠す戦略的課題
しかし、キングス・カレッジ・ロンドンのアンドレアス・クリーグ准教授は警告する。「湾岸のミサイル防衛能力は戦術的には有能だが、戦略的にはストレスを受けている」。
問題は持続可能性だ。迎撃ミサイル1発のコストは数百万ドルに達する一方、攻撃側の無人機はその数分の一のコストで製造できる。「継続的な襲撃、混合攻撃、長期間の無人機圧力が続くと、制約要因は弾薬の備蓄量、補給速度、そして高価な迎撃ミサイルを安価で持続的な脅威に使う経済性になる」とクリーグ氏は指摘する。
実際、迎撃に成功しても破片による被害は避けられない。UAEでは3名が死亡、78名が負傷したが、その多くは直撃ではなく落下する破片が原因だった。
統合と分散のバランス
湾岸諸国の防空システムの強みは統合性にある。カタールのアル・ウデイド空軍基地に設置されたAN/FPS-132レーダーシステムなどが早期警戒データを共有し、地域全体の脅威探知能力を向上させている。
「統合は『探知』と『共有』の層で最も強固だ」とクリーグ氏は説明する。しかし「『射撃』の層では隙間が残る」。最終的な交戦決定は各国が独自に行うため、完全な統合運用には至っていない。
アマゾン・ウェブ・サービスの施設が直撃を受けるなど、攻撃は軍事目標を超えてデジタルインフラにも及んでいる。現代戦争の複雑さを物語る事例だ。
日本への示唆
日本も同様のミサイル脅威に直面している。北朝鮮の弾道ミサイル開発、中国の軍事力拡大を背景に、日本政府はイージス・アショア計画を断念した後、新たな防衛体制の構築を急いでいる。
湾岸諸国の経験は、高い迎撃率だけでは十分でないことを示している。持続可能な防衛には、経済性、補給体制、そして攻撃コストの非対称性への対処が不可欠だ。日本の反撃能力保有議論も、この文脈で理解できる。
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