AIが設計した薬が、人体へ——その日が近づいている
Google DeepMindの子会社Isomorphic Labsが、AlphaFold技術で設計したAI創薬を臨床試験へ。600億円超の資金調達を経て、製薬業界の構造が変わろうとしている。
「すべての病気を解決する」——そう言い切る企業が、冗談ではないことを証明しようとしています。
Google DeepMindの子会社である英国のバイオテック企業Isomorphic Labsが、AI技術によって設計された薬の臨床試験(人体への投与試験)を間もなく開始すると発表しました。2026年4月16日、ロンドンで開催されたWIRED Healthにおいて、同社社長のMax Jaderberg氏が「私たちは今、臨床に向けて準備を進めています。これらの分子の有効性を確認する瞬間が来るのが、非常に楽しみです」と語りました。
AlphaFoldとは何か——なぜこれほど注目されるのか
そもそも、なぜAIが薬を「設計」できるのでしょうか。その鍵となるのが、DeepMindが開発したAlphaFoldというAIプラットフォームです。
生命を構成するタンパク質は、20種類のアミノ酸が長い鎖状につながり、複雑な三次元構造に折り畳まれることで機能します。その立体構造を予測することは、1970年代から科学者たちが挑み続けた難題でした。タンパク質一本が取りうる形の数は天文学的であり、実験による解明には膨大な時間とコストがかかっていたのです。
その壁を打ち破ったのが、2020年に発表されたAlphaFold 2です。深層学習を活用したこのシステムは、タンパク質の構造予測に関して前例のない精度を実現しました。翌年にはオープンソースとして公開され、190カ国・200万人以上の研究者が利用。現在では、研究者が把握している約2億種のタンパク質すべての構造予測が可能になっています。
この功績により、DeepMindのCEOであるDemis Hassabis氏とJohn Jumper氏は2024年のノーベル化学賞を受賞しました。抗生物質耐性の解明やプラスチック分解酵素の設計など、その応用範囲は医薬品開発をはるかに超えています。
さらに2024年に登場したAlphaFold 3は、タンパク質単体の予測を超え、DNA・RNAといった他の分子との相互作用まで予測できるようになりました。「薬がどの分子にどれほど強く結合するか、そして意図しない結合が起きないかを見るために必要なもの、それがまさにこれです」とHassabis氏は語っています。
「より少ない量で、より高い効果を」——AIが変える薬の設計思想
Isomorphic Labsは2021年にAlphabet(Googleの親会社)の傘下として設立されました。同社はAlphaFoldの技術を創薬に応用することを専門とし、現在は独自の薬設計エンジン「IsoDDE」も開発しています。この新エンジンは、技術論文によればAlphaFold 3の精度を2倍以上上回るとされています。
パートナーシップの面では、製薬大手のイーライリリーとノバルティスとの共同研究が進んでおり、腫瘍学・免疫学の領域で独自の新薬パイプラインも構築しています。2025年には最初の資金調達ラウンドで6億ドル(約900億円)を調達し、臨床開発チームの整備を進めてきました。
Jaderberg氏が特に強調するのは、AI設計による薬の「精度の高さ」です。「分子がどのように機能するかについて、これほど深く理解しているからこそ、非常に高い効力を持つように設計できる。より少ない投与量で効果が出て、副作用も少なくなります」と述べています。
ただし、当初の計画より遅れていることも事実です。昨年、Hassabis氏は「2025年末までに臨床試験を開始する」と述べていましたが、具体的なスケジュールはまだ明かされていません。
日本の製薬・医療への影響——静かに変わる競争の地図
この動きは、日本の製薬業界にとって無関係ではありません。武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共といった日本の大手製薬企業は、すでにAI創薬への投資を加速させています。しかし、Isomorphic Labsのように基盤AIモデルを自社開発するのではなく、外部のAIプラットフォームを活用する形が主流です。
日本が抱える構造的な課題も、この文脈では重要です。急速な高齢化により、2040年には国民の約35%が65歳以上になると予測されています。がんや認知症、免疫疾患など、加齢に伴う疾患への有効な治療薬の開発は、社会保障費の抑制という観点からも急務です。AI創薬が本当に「より少ない副作用でより効果的な薬」を実現するなら、その恩恵は日本社会に直接届く可能性があります。
一方で、規制の問題もあります。日本の医薬品承認プロセスは厳格であり、厚生労働省がAI設計の薬をどのように審査するかは、まだ明確な枠組みが存在しません。米国のFDAも同様の課題に直面しており、規制当局がAI創薬の時代にどう適応するかは、世界共通の問いです。
「すべての病気を解決する」——夢想か、現実の射程か
「狂ったミッションだと思います。でも本気です。真顔で言えます。なぜなら、それが可能だと信じているから」——Jaderberg氏のこの言葉は、業界の一部からは楽観的すぎると受け取られるかもしれません。
実際、AIが設計した薬が臨床試験で成功するかどうかは、まだ誰にもわかりません。製薬業界では、臨床試験に進んだ薬の約90%が最終的に承認されないというデータがあります。AIが設計に関わったとしても、その壁が消えるわけではありません。
また、「AIが設計した薬」という概念そのものへの倫理的・社会的な問いもあります。アルゴリズムが提案した分子を人体に投与することへの信頼をどう築くか——これは科学の問題であると同時に、社会の問題でもあります。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
関連記事
NYスタートアップのMantis Biotechが、希少疾患や身体的エッジケースに対応する「デジタルヒューマン」技術で740万ドルを調達。AIと物理エンジンを組み合わせた合成データが、医療・創薬・スポーツ科学をどう変えるのか。
カリフォルニアのスタートアップが「非感覚的クローン」を臓器供給源として提案。同時に、体外で子宮を生存させる装置が初めて成功。医療技術の進歩が問いかける、生命の定義とは。
カリフォルニアのスタートアップR3 Bioが、臓器提供のための「意識なしクローン人間」を作る計画を持つことが明らかに。科学的可能性、倫理的問題、そして日本社会への示唆を探る。
スペインの研究チームが、摘出した子宮を24時間生存させることに成功。子宮外妊娠の実現も視野に入れるこの装置は、不妊治療や子宮疾患の研究に何をもたらすのか。
意見
この記事についてあなたの考えを共有してください
ログインして会話に参加