中国ロボット企業が世界の舞台へ:Unitree Roboticsの台頭
春節晩会でダンスを披露し、ドイツ首相が工場を視察。Unitree Roboticsはいかにして中国の新興企業から世界的な存在へと変貌を遂げたのか。日本企業への影響も含め考察します。
春節の夜、15億人が見守るテレビ画面の前で、二足歩行ロボットが軽やかにダンスを踊った。演じたのは人間ではなく、杭州発の新興企業 Unitree Robotics のヒューマノイドロボットだった。
その数週間後、ドイツの新首相 フリードリヒ・メルツ は国賓訪問の日程に、この企業の工場見学を組み込んだ。世界最大の経済大国のひとつを率いる政治家が、設立から10年も経たないスタートアップの製造現場を訪れるという、異例の光景だった。
「王興興」という名前が意味するもの
Unitree Robotics を創業したのは、王興興(ワン・シンシン) という若きエンジニアだ。上海交通大学で機械工学を学んだ彼は、2016年に同社を設立。当初は四足歩行ロボット「Go1」シリーズで世界の研究者やエンジニアの注目を集めた。その価格は競合他社の製品の10分の1以下という破格のものだった。
その後、ヒューマノイドロボット「H1」「G1」シリーズへと展開を進め、現在では G1 の販売価格は約1万6000ドル(約240万円)。Boston Dynamics のAtlasや Figure AI といった欧米勢と比較しても、コスト競争力において圧倒的な優位性を持つ。
中国国内では、地方政府が競うように王氏を自治体の「顧問」や「特別招聘専門家」に任命している。製造業の空洞化に悩む地方にとって、ロボット産業は経済再生の切り札として映っているのだ。
なぜ今、この企業が注目されるのか
タイミングは偶然ではない。中国政府は2025年を「ヒューマノイドロボット産業化元年」と位置づけ、国家レベルでの支援を強化している。北京市は2027年までにヒューマノイドロボットの量産体制確立を目標に掲げ、上海市も専用の産業パークを整備中だ。
こうした国家戦略の追い風を受けながら、Unitree は純粋な技術力でも評価されている点が重要だ。春節晩会(中国版紅白歌合戦)への出演は、政府のPRに利用された側面もあるが、同時に「実際に動く」ロボットを世界に見せた実証でもあった。
一方で、メルツ首相の工場訪問は別の文脈を持つ。ドイツは製造業の競争力低下に苦しんでおり、中国のロボット技術を「脅威」ではなく「協力の可能性」として探る姿勢を示したとも読める。欧州が中国テクノロジーに対して一枚岩でないことを、この訪問は改めて示している。
日本企業にとって何を意味するか
日本はロボット工学の先進国として長年その地位を誇ってきた。ファナック、安川電機、ホンダ(ASIMO)、ソフトバンクロボティクス(Pepper)——いずれも世界的に知られた名前だ。しかし Unitree の台頭は、この業界の競争構造を根本から問い直す契機となっている。
価格という点で言えば、日本製の産業用ロボットは依然として品質と信頼性で優位に立つ。だが、ヒューマノイドロボットという新たなカテゴリーでは、まだ誰もが「先行者」ではない。高齢化が急速に進む日本社会において、介護・物流・製造現場でのロボット需要は今後急増が見込まれる。その需要を誰が満たすのか——国産メーカーか、それとも低コストの中国製品か——という問いは、もはや仮定の話ではない。
さらに懸念されるのは、サプライチェーンの問題だ。ヒューマノイドロボットに使われるアクチュエーター(関節駆動部品)や高精度センサーの多くは、現在も日本や欧州のメーカーが供給している。Unitree がこれらの内製化を進めれば、日本部品メーカーへの影響は無視できない規模になり得る。
「安さ」だけではない、という見方
もちろん、懐疑的な視点も存在する。ロボットが春節の舞台で踊ることと、実際の職場環境で安定稼働することの間には、まだ大きな技術的ギャップがある。工場の制御された環境とは異なり、人間の生活空間は予測不能な事象に満ちている。
また、データセキュリティの問題も浮上している。ヒューマノイドロボットは多数のカメラやセンサーを搭載しており、収集されるデータの取り扱いについて、欧米や日本の規制当局は慎重な姿勢を崩していない。米国では中国製ロボットの政府施設への導入を制限する動きも出始めており、日本でも同様の議論が起きる可能性は十分ある。
「コスト競争力があっても、信頼性と安全性の証明なしには市場は開かない」——これは日本の製造業が長年守ってきた哲学でもある。
記者
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