「住宅を建てやすく」したのに、なぜ家が増えないのか
カリフォルニア州は10年間、住宅規制を緩和し続けた。それでも新築件数はほぼ横ばい。その失敗の構造は、日本の都市政策にも重なる問いを投げかけている。
法律を変えれば、家は増える。その仮説を、カリフォルニア州は10年かけて検証した。結果は、102,000戸——人口約4,000万人の州で、10年前とほぼ同じ数字だった。
なぜ「建てやすくした」のに家が増えなかったのか
カリフォルニア州は、YIMBY(Yes In My Backyard)運動の発祥地だ。「住宅が高すぎるのは、建設を妨げる規制があるからだ。規制を緩めれば、家は自然と増える」——この理論のもと、州議会は2010年代から次々と親住宅法を可決してきた。
2021年に成立した上院法案9号(S.B. 9)は、その象徴だった。通称「二世帯住宅法」と呼ばれるこの法律は、一戸建て専用地域での複数戸建設を認めるもので、保守的な試算でも70万戸の新規住宅創出が見込まれた。ニューヨーク・タイムズの住宅担当記者は「過去50年で最大の住宅政策の転換」と評した。
ところが、法律が施行されてから2年間で許可が下りたプロジェクトは、わずか160件だった。地方自治体が反撃に出たのだ。施行後18か月で100件以上の「緊急条例」が発令され、開発を事実上不可能にする駐車場設置義務、史跡地区や絶滅危惧種の生息地指定による適用除外、非現実的な面積制限などが次々と導入された。
「正直、地方自治体がここまでやるとは予想していなかった」と、法案の起草者である州上院議員スコット・ウィーナーは振り返る。彼が「是正法案」を提出しようとしたところ、今度は州議会の同僚たちが動かなかった。「住宅不足を解決したいとは誰もが言う。でも、次の住民説明会で怒った住宅所有者と向き合いたい人はいない」
「すべてを叶えようとした」法律の矛盾
2022年、住宅推進派は戦略を転換した。一戸建て地域を避け、オフィスや商業用地に集合住宅を建設できるようにする議会法案2011号(A.B. 2011)を提出。最大240万戸の創出が見込まれ、ほぼ全会一致で可決。ギャビン・ニューサム知事も「大きな前進だ」と称えた。
だが、施行後に許可申請が出たのはわずか22件だった。
今度は、法律の「中身」が問題だった。A.B. 2011には二つの重い条件が付いていた。一つは「通行賃金(prevailing wage)」条項——労働組合が公共事業向けに交渉した高い賃金水準を、民間開発にも適用するものだ。開発業者によれば、この一条件だけでプロジェクトのコストが20〜25%上昇する。もう一つは、全戸数の約15%を低所得者向けに確保する義務だ。
「カリフォルニアでは、ただでさえプロジェクトの採算を合わせるのが難しい」と、全国規模の住宅開発会社サイプレス・エクイティ・インベストメンツの最高開発責任者ブルース・フェアティは言う。「こうした追加要件が加わると、基本的に不可能になる」
ニューヨーク・タイムズのコラムニストエズラ・クラインはこれを「エブリシング・ベーグル・リベラリズム」と呼んだ。高賃金も、低所得者向け住宅も、環境保護も、地域の自治も——すべてを一つの法律に詰め込もうとした結果、どれも実現しない法律が量産された。「結局、建てられなかったアパートは、建設労働者に高賃金を払うことも、低所得者に安い家賃を提供することもできない」とウィーナー議員は言う。「50%の0は、やはり0だ」
「シンプルな改革」が機能した都市たち
一方、同じ時期に別の地域では、YIMBYの理論が実際に機能していた。
2021年、ノースカロライナ州ローリーは集合住宅の規制を緩和した。その後3年間で年間住宅建設数は60%増加し、家賃上昇率は前の5年間の半分に抑えられた。オースティン、ミネアポリス、ニューヨーク州ニューロシェルでも似たような成果が出ている。これらの都市の共通点は、労働賃金や低所得者向け割当などの付帯条件が少なかったこと、そして市レベルの法律だったため地方自治体による抵抗が起きにくかったことだ。
とりわけ対照的なのがフロリダ州だ。2023年に成立した「ライブ・ローカル法」は、A.B. 2011とほぼ同じ内容——商業・工業用地への集合住宅建設を認める——だが、通行賃金条項はなく、低所得者向け割当も小さく、代わりに開発業者への大きな税優遇が設けられた。高金利、建材費高騰、建設労働者不足という「最悪のタイミング」にもかかわらず、すでに55,000戸以上の許可が下りている。
カリフォルニア自身にも、「シンプルな改革」が機能した前例がある。2016年から始まった付属住宅(ADU)の規制緩和だ。余計な条件をほとんど付けずに建設を認めた結果、許可件数は2016年の1,000戸強から2023年には28,000戸超へと急増。州全体の住宅増加の約20%を占めるようになった。
「最後のチャンス」に訪れた転換点
2024年の選挙は、カリフォルニアの住宅政策に転機をもたらした。住宅危機は「青い州の失政」の象徴となり、民主党連合の亀裂を深めた。その圧力を受け、州議会はニューサム知事の主導のもと、長年「聖杯」と呼ばれてきた2つの改革法を可決した。
A.B. 130は、州の厳格な環境審査プロセスから大半の新規都市開発を免除する。S.B. 79は、公共交通機関の沿線での集合住宅建設を大幅に容易にする。そして今回の2法には、過去の失敗の原因となった労働・低所得者向け要件が大幅に緩和、または撤廃されている。
だが、法律が施行される前から、複数の自治体がすでに適用除外を求めてロビー活動を始めている。ロサンゼルス郡の交通機関は「自分たちは適用対象外だ」と主張し、2030年代まで実施を遅らせようとする動きも出ている。ウィーナー議員はまたしても「是正法案」の起草を余儀なくされているが、可決に必要な3分の2の賛成を得られるかは不透明だ。
「10年間、全員に『イエス』と言い続けた結果が今の危機だ。今度は『ノー』と言えるか」——これが、カリフォルニア住宅政策が直面している本質的な問いだ。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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