「女性に投票権は不要」——アメリカで台頭する「マスキュリニズム」とは
米誌アトランティックが報じた「マスキュリニズム」の台頭。フェミニズムへの反動として生まれたこの運動は、トランプ政権とも深く結びつき、アメリカ政治の新たな軸となりつつある。日本社会への示唆も含め多角的に読み解く。
「女性は投票すべきではない」——この主張が、アメリカの主流メディアの表紙を飾る時代が来た。
米誌『ジ・アトランティック』は2026年6月号の巻頭特集として、スタッフライターのヘレン・ルイスによる長編ルポ「女性に投票してほしくない男たち(The Men Who Don't Want Women to Vote)」を掲載しました。そこで描かれるのは、「マスキュリニズム(masculinism)」と呼ばれる思想運動の急速な拡大です。
マスキュリニズムとは何か——その全体像
マスキュリニズムとは、フェミニズムの進展に対抗し、男性の優位性を再確立しようとする思想的・政治的運動です。ルイスはこれを「周縁的な信念体系どころか、アメリカ右派を束ねる最も重要な力」と位置づけています。牧師、上院議員、インフルエンサー、ポッドキャスター——その担い手は驚くほど多様です。
この運動には「入口」が複数あります。一方には、男性の孤独問題、高等教育における男性比率の低下、大卒資格を持たない男性の賃金停滞といった、実際に議論に値する社会問題が存在します。こうした問題意識は、多くの人が共感できるものです。しかし運動のもう一方の端には、小説『侍女の物語』を想起させる政治的アジェンダが広がっています。女性の就労・投票・身体の自律を否定し、無過失離婚の廃止、男性稼ぎ手への税制優遇、職場でのセクシャルハラスメントの「正常化」、採用・昇進・賃金での男性優遇——「男性のためのアファーマティブ・アクション」とルイスが呼ぶものです。
ルイスが取材した人物の一人、ダグラス・ウィルソンは、神政政治的なビジョンを持つ宗教指導者で、国防長官ピート・ヘグセスが所属する教会の関係者でもあります。また、オックスフォードとケンブリッジで宗教史を学びながら「ロー・エッグ・ナショナリスト」を名乗るオンライン論客、女性の労働参加を「文明への脅威」と問うエッセイを発表したヘレン・アンドリュース、そして現代女性を「薬漬けで、おせっかいで、口うるさい」と断言するボイシー州立大学の政治哲学教授スコット・イェンナーなど、学術・宗教・メディアにわたる広い層がこの運動を構成しています。
なぜ「今」なのか——トランプ政権との接続
この特集が2026年5月に公開されたタイミングは偶然ではありません。ヘグセス国防長官はすでに、女性向けのリーダーシップ育成プログラムを含む軍内のDEI(多様性・公平性・包括性)施策を廃止しています。マスキュリニズムの政策目標は、ホワイトハウスの政策決定と着実に連動しています。
ルイスはこう結論づけています。「マスキュリニズムは、現状——それがどんな状況であれ——に対する永久機関のような不満であり、言語化されない苦悩の叫びだ。真剣であり、滑稽でもあり、時にキャンプ的で、時に背筋が凍る。注目を集めるパフォーマンスであり、真剣な提案でもある。だからこそ、トランプ主義の礎石となった」。
日本社会との接点——「失われた男性性」の普遍性
日本の読者にとって、この問題は遠い国の話ではないかもしれません。日本でも、男性の孤独・引きこもり・低賃金・晩婚化は深刻な社会問題です。「草食系男子」「男の生きづらさ」という言葉が広まって久しく、一部のオンラインコミュニティでは海外のマノスフィア(男性至上主義的なインターネット空間)の言説が流入しています。
ただし、日本とアメリカでは文脈が異なります。アメリカのマスキュリニズムは、キリスト教原理主義・共和党政治・SNSインフルエンサー文化が合流した、極めてアメリカ的な現象です。日本では宗教的な動員力が弱く、政治的な組織化も異なる形をとります。しかし「男性の苦悩が政治的エネルギーに転換される」という構造は、普遍的な問いを投げかけています。
また、日本企業のグローバル人事戦略にも影響が及ぶ可能性があります。アメリカでDEIの後退が加速する中、日本の大手企業が米国拠点でどのようなダイバーシティ方針を維持・修正するかは、実務的な課題となりつつあります。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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