AI業界のCEOたち、政府政策への批判で板挟み状態
OpenAIとAnthropicのCEOが政府の移民政策を批判する一方で、トランプ政権との協力関係維持に苦慮。AI業界の政治的ジレンマを分析
400億ドルの資金調達を完了したOpenAIと、190億ドルを調達したAnthropic。AI業界を牽引する両社のCEOが今、かつてない政治的ジレンマに直面している。
サム・アルトマン氏とダリオ・アモデイ氏は先週、政府の移民執行機関による過度な取り締まりを批判する声明を発表した。しかし同時に、トランプ政権への賛辞も忘れなかった。この微妙なバランス感覚の背景には、AI業界特有の複雑な事情がある。
従業員からの圧力と経営判断の狭間
事の発端は、ミネアポリスでの国境警備隊による市民射殺事件だった。AnthropicのアモデイCEOはNBC Newsで「民主的価値観を国内で守る必要がある」と公然と批判。一方、OpenAIのアルトマンCEOは社内Slackで「ICE(移民税関執行局)のやり方は行き過ぎている」と従業員に向けてメッセージを送った。
しかし、両CEOとも批判の矛先を政府全体に向けることは避けた。アルトマン氏は同じメッセージでトランプ大統領を「非常に強いリーダー」と評価し、アモデイ氏もトランプ政権の独立調査検討を評価した。
技術系従業員らが組織するICEout.techは、すべての政府契約の停止と公的な抗議声明を求めている。「OpenAIとAnthropicのCEOによる批判は歓迎するが、Apple、Google、Microsoft、Metaからも声を聞きたい」と匿名の組織者は語る。
2016年との落差が浮き彫りに
特にアルトマン氏の変化は顕著だ。2016年、彼は自身のブログでトランプ氏を「独裁者のように無責任」「扇動的な憎悪の扇動者」と痛烈に批判していた。「1930年代のドイツの歴史を知る者にとって、トランプの行動を見るのは身の毛もよだつ」とまで書いていた人物が、今や「非常に強いリーダー」と評価している。
Anthropicのアモデイ氏も、先週の世界経済フォーラムでトランプ政権のNvidiaへの中国向けAIチップ販売許可を「狂気の沙汰」「北朝鮮に核兵器を売るようなもの」と厳しく批判していた。
巨額資金調達と政治的配慮
この微妙な立ち位置の背景には、両社の急速な成長がある。OpenAIは8300億ドルの企業価値での1000億ドル追加調達を検討中で、Anthropicも3500億ドルの企業価値での250億ドル調達を進めている。
トランプ政権のAI重視政策は、両社の成長を後押ししてきた。完全な対立姿勢を取れば、規制環境の悪化や政府契約の失注リスクがある。一方で、従業員や社会からの倫理的要求も無視できない。
日本企業にとっても、この動向は他人事ではない。ソフトバンクはOpenAIに大規模投資しており、NTTや富士通などもAI分野での米国企業との連携を深めている。米国AI業界の政治的立ち位置の変化は、日本の技術戦略にも影響を与える可能性がある。
関連記事
マスク対オルトマン裁判でグレッグ・ブロックマンが証言。約3兆円相当の持ち分、非営利ミッションとの矛盾、そしてOpenAIの本質的な問いが法廷で浮き彫りになった。
マスク対オルトマン裁判で公開された証拠品から、OpenAI創設期の内幕が明らかに。NvidiaのGPU提供、ミッション草案、内部の権力闘争まで、AI業界の原点を読み解く。
イーロン・マスクがOpenAIとサム・アルトマンCEOを相手取った裁判で、2017年の権力闘争の内幕が明らかに。資金停止、研究者引き抜き、取締役会支配をめぐる生々しいメールが証拠として提出された。
OpenAIをめぐるイーロン・マスクとサム・オルトマンの法廷闘争が開幕。陪審員候補の多くがマスクに否定的な印象を持ち、選定から波乱含みのスタートとなった。AI業界と日本企業への影響を読む。
意見
この記事についてあなたの考えを共有してください
ログインして会話に参加