米政府、大型洋上風力発電5件を緊急停止。国防レーダーへの干渉リスクを理由に

米ホワイトハウスは、東海岸で計画されている5件の大型洋上風力発電プロジェクトのリース（賃貸借契約）手続きを一時停止すると発表しました。これらのプロジェクトは合計で約6ギガワットの発電容量を持ち、データセンター開発が活発な米国東海岸の電力需要を支えるものと期待されていました。政府が停止の理由として挙げたのは、国防上のレーダーシステムへの干渉という、国家安全保障上の懸念です。

内務省のダグ・バーガム長官は月曜日の声明で、「敵対国の関連技術の急速な進化や、東海岸の人口密集地に近い大規模洋上風力発電プロジェクトがもたらす脆弱性など、新たに出現した国家安全保障上のリスクに対処するための措置だ」と説明しました。今回影響を受けるのは、コネチカット州とロードアイランド州の「レボリューション・ウィンド」、バージニア州の「コースタル・バージニア・オフショア・ウィンド」、マサチューセッツ州の「ヴィンヤード・ウィンド」、そしてニューヨーク州の「エンパイア・ウィンド」と「サンライズ・ウィンド」の5つのプロジェクトです。

内務省はこの措置の根拠として、国防総省（ペンタゴン）による「最近完了した機密報告書」と、どの機関が作成したか明記されていない非機密の政府報告書を引用しています。政府と風力発電事業者は、レーダー干渉の問題について長年にわたり対策を協議してきましたが、今回の声明ではその協力関係については触れられていませんでした。

風力タービンがレーダーに干渉する現象は「ドップラー効果」によって説明されます。ランド研究所のシニアエンジニア、ニコラス・オドノヒュー氏によると、タービンのブレード（羽根）は回転することで、レーダー基地に対して近づいたり遠ざかったりする動きを繰り返します。この動きがレーダー信号の周波数を変化させ、複雑な「ドップラー署名」を生み出します。これにより、風力発電所の近くにいる航空機などのターゲットを検知することが難しくなる可能性があるのです。現代のレーダーシステムは、ノイズキャンセリングヘッドホンのように、風力発電所からの干渉パターンを学習し、それを抑制する「時空間適応処理（STAP）」などの高度なアルゴリズムを用いてこの問題に対処しています。

この問題自体は新しいものではなく、研究者たちは10年以上にわたって現象を研究し、さまざまな緩和策を開発してきました。実際に、米エネルギー省が2024年2月に発表した報告書では、「これまでのところ、影響を受けたレーダーの技術的性能を完全に回復できる緩和技術はない」としながらも、「緩和技術の開発と利用、そして政府機関と風力産業界の協力により、連邦のレーダー機関は重大な影響を受けることなく任務を継続でき、米国内での大規模な風力エネルギー導入も可能になった」と結論付けています。