香港・大埔の大火、159人の死者が問う「住まいの危機」の根深さ
香港・大埔区の公共住宅で発生し159人が犠牲となった大火災。この悲劇は、平均5年の待機期間を要する香港の深刻な住宅危機を浮き彫りにし、政治・経済・社会に広範な影響を及ぼしている。災害対応を超えた、都市の根本的な課題を分析する。
香港・大埔区で発生し、少なくとも159人の命を奪った大規模火災から数週間が経過しましたが、被災者の行く末と街の未来には大きな問いが投げかけられています。焼失した公共住宅「宏福苑(Wang Fuk Court)」の生存者にとって、家族や友人、そして「住まい」を失った悲しみは計り知れません。今回の悲劇は、香港が長年抱える深刻な住宅問題を改めて浮き彫りにしました。
香港政府と複数の民間NGOは、被災者に対して仮設住居と長期的な支援を約束しています。しかし、その「長期的支援」の道のりは険しいものとなりそうです。代替の公共住宅への入居が最も直接的な解決策に見えますが、2025年9月時点で、公営賃貸住宅の平均待機期間はすでに約5年に達しています。被災者が必要としているのは、単なる避難場所ではなく、生活を再建するための「住まい」なのです。
しかし、この制度は多くの課題を抱えています。香港社会福祉署の報告によれば、2022年時点で登録されている路上生活者は1,564人にのぼり、NGOの推計ではその数はさらに多いとされています。また、所得制限を超える富裕層が制度を不正に利用する問題も長年指摘されており、最近では高級車を所有する入居者への調査も行われました。
この根深い住宅問題は、香港の政治、経済、社会のあらゆる側面に影響を及ぼしています。中国国営の新華社通信によると、2019年の大規模な抗議活動の背景には「住宅と土地供給に関する問題」への不満があったとされています。また、香港中華総商会は、土地供給の不足が「香港の持続的な経済成長における最大のボトルネック」であると指摘。多くの若者にとって、マイホームの所有はもはや手の届かない夢となりつつあります。
今回の火災の直後に行われた2025年の立法会選挙では、住宅問題が大きな争点となりました。しかし、この火災が選挙結果を大きく左右したと見るのは誤りです。住宅への不満は火災以前から存在しており、投票率が32%弱と低迷した多くの要因の一つに過ぎません。この悲劇は政治の転換点ではなく、むしろ香港のガバナンスを映し出すケーススタディとして理解するべきでしょう。
当面、政府と市民の焦点は被災者の直接支援に注がれます。しかしその先には、この悲劇を教訓とし、すべての香港市民が安心して暮らせる「住まい」の未来を築くという、より大きな挑戦が待っています。
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