「AIスロップ」とは何か?TikTokで急増する奇妙な動画、その創造性とリスクを徹底解説
TikTokやInstagramで急増する「AIスロップ」とは何か?SoraなどのAIツールが生み出す奇妙な動画の背景にある新たな創造性、クリエイターたちの挑戦、そして社会的な論争までを深く掘り下げて解説します。
最近、SNSをスクロールすると、魚眼レンズの監視カメラから撮影したような、同じような映像を頻繁に目にします。リビングの隅、夜間の車道、誰もいない食料品店。そして、そこではありえないことが起こります。奇妙な衣装を着た人物が現れたり、車が紙のように折りたたまれて走り去ったり、猫がカピバラや熊とくつろいだり。これらは、現在「AIスロップ」と呼ばれる現象の代表的なスタイルです。
「スロップ(slop)」とは、TikTokやInstagramなどのプラットフォームに溢れる、反復的でしばしば無意味なAI生成動画の洪水のことです。この背景には、9月にアプリ版が登場して人気が爆発したOpenAIの「Sora」やGoogleの「Veo」、RunwayのAIモデルといった新しいツールの登場があります。これにより、誰もが画面を数回タップするだけで動画を制作できるようになりました。
「AIスロップ」ブームの背景
テキストから動画を生成する技術は、この2年間で劇的に進化しました。「Sora2」や「Veo 3.1」といった最新モデルは、最大1分間のリアルで滑らかな動画を作成できます。当初、AI企業はこれらのツールを映画制作者向けに売り込んでいましたが、実際に普及したのは私たちの手の中にあるスマートフォンでした。
Adobeが10月に発表したレポートによると、クリエイターの86%が生成AIを使用しており、プロではない一般ユーザーも積極的に活用しています。これにより、インドのモディ首相とガンジーが踊る動画や、『ゲーム・オブ・スローンズ』を河南オペラ風に再構築した動画など、奇妙で面白いコンテンツが大量に生み出されています。
一方で、こうした手軽さは負の側面も持ち合わせています。「Sora」はマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの人種差別的なディープフェイク作成に悪用され、TikTokやXでは女性や少女への暴力を描いた動画が拡散される問題も起きています。
新たな創造性:奇妙さを受け入れるクリエイターたち
多くのAI動画クリエイターは、現実を模倣するのではなく、AIが持つ本質的な「奇妙さ」を受け入れ、それを表現の核に据えています。AIアーティストのウェンフイ・リム氏は、「AI動画クリエイターの間では、『どこまで奇妙なものを押し出せるか』という競争がある」と語ります。
- ドレイク・ガリベイ氏:不気味な人間と動物のハイブリッドをテーマにした動画で知られ、「新鮮なAIスロップを作る」と題した動画はTikTokで830万回以上再生されました。
- ダリル・アンセルモ氏:2021年から毎日AI動画を投稿しており、そのアートプロジェクト「AI Slop」はパリのグラン・パレ・イメルシフなど複数のギャラリーで展示されています。
- ウェンフイ・リム氏(Niceaunties):シンガポールの「おばさん文化」に触発され、高齢のアジア人女性が幻想的な世界で活躍する動画を制作。「Auntlantis」という動画はInstagramで1,350万回再生を記録しました。
- Granny Spills: sassy(生意気)なおばあちゃんキャラクターが登場するAI動画アカウント。開設からわずか3ヶ月で180万人のフォロワーを獲得しました。
スロップを巡る論争と擁護論
「スロップ」という言葉は、もともと2010年代初頭に4chanで生まれた隠語で、現在では低品質なAI生成コンテンツ全般を指す軽蔑的な表現として使われています。このレッテルに対し、クリエイターたちの反応は様々です。アンセルモ氏のように皮肉を込めて受け入れる者もいれば、「Granny Spills」の制作者のように、創造的な努力を軽視するものだとして不快感を示す者もいます。
彼らの主張は、質の高いAIコンテンツ制作は決してワンクリックで終わる作業ではない、という点にあります。望むビジュアルを一貫して得るためには、スキル、試行錯誤、そして優れた美的感覚が必要だと彼らは言います。しかし、こうした反論にもかかわらず、AIクリエイターへの反発は根強くあります。
ブルッキングス研究所の調査によると、2022年に新しい生成AIツールが登場した後、AIの影響を受けやすい職種のフリーランサーは、契約が約2%、収入が5%減少しました。
— ブルッキングス研究所
インターネット文化の新たな潮流
多くの人々にとって、「AIスロップ」は、醜く、騒がしく、人間の仕事を駆逐する、インターネットの嫌な側面を増幅させたものに見えるかもしれません。しかし、別の見方も存在します。それは、この混沌とした状況の中でさえ、人々は遊び、笑い、意味を見出す方法を発見しているというものです。
最近、中国のクリエイターが「AIスロップ」を模倣した奇妙な寸劇を演じる動画が話題になりました。AIが生成したかのような不自然な動きや話し方を人間が演じるこのパロディは、AIが人間の創造性を奪うのではなく、むしろ模倣し、からかい、遊ぶための新しいスタイルを提供したことを示唆しています。模倣し、リミックスし、冗談を言うという衝動は、依然として頑固なまでに人間的なものであり、AIがそれを奪うことはできないのかもしれません。
AIスロップは、単なる低品質コンテンツの氾濫ではなく、文化がテクノロジーと相互作用するリアルタイムの実験場です。初期の模倣や奇妙さを超え、今後はAIの特性を活かした独自の物語性やアート表現が生まれ、クリエイターの役割は「制作者」から「ディレクター」へと変化していくでしょう。
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