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イラン初のSCO軍事演習:中露が描く「新・中東秩序」と西側への挑戦
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イラン初のSCO軍事演習:中露が描く「新・中東秩序」と西側への挑戦

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イランで初のSCO合同軍事演習が開催。中露イランの連携強化が示す地政学シフトと、それが世界のエネルギー安全保障とパワーバランスに与える影響を専門家が分析。

歴史的演習が示す地政学の転換点

2025年12月、イラン北西部で歴史的な軍事演習が実施されました。上海協力機構(SCO)の旗の下、中国、ロシア、インドを含む9カ国の軍隊が初めてイランの地に集結したのです。公式には「対テロ訓練」とされていますが、この「Sahand 2025」演習が発するメッセージは、単なる軍事協力の枠を遥かに超えています。これは、長年国際社会から孤立してきたイランが、中露主導の非西側陣営に完全に組み込まれたことを世界に示す、極めて象徴的な出来事です。我々はこの動きを、中東におけるパワーバランスの根本的な変化、そして西側主導の国際秩序に対する新たな挑戦の始まりとして捉える必要があります。

この記事の要点

  • イランの孤立からの完全脱却:本演習は、イランがSCOという多国間の安全保障枠組みの正式な一員として、地政学的な中心舞台に復帰したことを意味します。
  • 中国の戦略的大転換:かつてイランとの深入りを避けていた中国が、米中対立の激化を背景に、イランをエネルギー安全保障と地政学上の重要なパートナーとして公然と受け入れる姿勢に転換しました。
  • 「反米枢軸」の形成:米国との対立を深める中露イランの連携は、経済・軍事の両面で西側に対抗する新たな勢力圏の核となりつつあります。
  • 中東の新たな勢力均衡:米国の中東における影響力が相対的に低下する中、この新たな連携は地域の安全保障構造を再定義し、イスラエルやサウジアラビアなどの既存プレイヤーに戦略の再考を迫ります。

詳細解説:なぜ今、中国はイランに接近するのか

背景:慎重だった北京の過去

2010年代半ばまで、中国の対イラン政策は極めて慎重でした。イランの「ならず者国家」という国際的評価、核開発を巡る国連制裁、そしてイランの強い反米姿勢は、米国や欧州との関係を重視していた中国にとって大きなリスクでした。さらに、中国の主要な石油供給国であるサウジアラビアとイランの長年の対立は、北京にとって中東政策を複雑にする頭痛の種でした。

戦略転換を促した3つの要因

しかし、状況は劇的に変化しました。この転換の背景には、主に3つの要因があります。

1. 米中対立の激化:トランプ前米大統領が2018年にイラン核合意(JCPOA)から離脱し、対中・対露・対イランで強硬姿勢を鮮明にしたことが、結果的に3カ国の結束を強める決定的な契機となりました。共通の「敵」を持つことで、戦略的利益が一致したのです。

2. エネルギー安全保障:中国は世界最大の石油輸入国であり、エネルギー源の多角化は国家安全保障の最重要課題です。制裁下で安価なイラン産原油の安定確保(現在イランの石油輸出の約90%を中国が占める)は、経済的にも戦略的にも極めて大きな価値を持ちます。

3. 外交的成功体験:2023年に中国が仲介して実現したイランとサウジアラビアの国交正常化は、中国にとって大きな自信となりました。これにより、イランとの関係を深めることのリスクが低減したと判断したのです。

この結果、イランは2023年にSCO、2024年にBRICSへの正式加盟を果たし、今回の合同軍事演習の主催国となるに至りました。これは、中国がもはやイランとの緊密な連携を国際社会に隠す必要がない、むしろ積極的に誇示する段階に入ったことを示しています。

PRISM Insight:テクノロジーと投資への示唆

この地政学的な変動は、単なる国際政治の力学に留まりません。テクノロジーと投資の観点からも重要な示唆を与えています。

技術トレンド:最も注目すべきは、「軍事技術の拡散と非対称戦能力の向上」です。ウクライナでの実戦経験を持つロシアの戦術や、中国が誇るドローン、サイバー攻撃、監視技術などが、この連携を通じてイランに供与される可能性が高まっています。これにより、イランの非対称戦能力(正規軍ではない形での戦闘能力)が飛躍的に向上し、中東の軍事バランスが根本から覆されるリスクがあります。また、SCO加盟国間でのデジタルインフラやサイバーセキュリティ基準の共通化が進み、西側とは異なる「技術圏」が生まれる可能性も無視できません。

投資示唆:投資家は、「地政学リスクの二極化」に備える必要があります。短期的には、中東の緊張激化がエネルギー価格の不安定化を招くでしょう。しかし長期的には、SCOやBRICSといった非西側経済圏内でのインフラ開発、資源取引、サプライチェーン関連企業に新たな機会が生まれる可能性があります。特に、米ドルを介さない人民元建てのエネルギー取引などが拡大すれば、世界の金融システムにも影響が及ぶため、通貨ポートフォリオの見直しも必要になるかもしれません。

今後の展望:新たな冷戦か、多極化時代の幕開けか

今回の軍事演習は、世界が新たな時代に突入したことを明確に示しています。今後の焦点は以下の3点です。

  1. 連携の深化:この中露イランの協力関係は、どこまで深化するのでしょうか。現状は西側に対抗するための便宜的な協力ですが、これが正式な軍事同盟へと発展する可能性も否定できません。
  2. インドの立ち位置:SCOのメンバーでありながら、日米豪印の枠組み「クアッド」にも参加するインドの動向は、この新たな秩序の行方を占う上で極めて重要です。インドが中露と西側の間でどのようなバランスを取るのか、その戦略が注目されます。
  3. 米国と同盟国の対応:米国、イスラエル、サウジアラビアなどの西側陣営は、この新たな連携にどう対抗するのでしょうか。外交的圧力、経済制裁の強化、あるいは新たな同盟関係の構築など、中東を舞台にした大国間の駆け引きは、今後さらに激化することが予想されます。

「Sahand 2025」は、単なる一回の軍事演習ではありません。それは、中東の砂漠の上で描かれ始めた、21世紀の新たな地政学地図の第一筆なのです。

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