「メディケア・フォー・オール」巡り米民主党に亀裂 進歩派と穏健派、上院予備選で対立激化
来年の中間選挙を控え、米民主党内で「メディケア・フォー・オール」を巡る路線対立が激化。進歩派が公約の核心に据える一方、穏健派は共和党への統一戦線を乱すリスクを懸念しています。激戦州の予備選で、党の将来を左右する論争が繰り広げられています。
リード
来年の中間選挙を控え、米民主党内の上院議員候補を選ぶ予備選挙で、「メディケア・フォー・オール」(全国民向け公的医療保険制度)を巡る路線対立が先鋭化しています。党内進歩派がこの政策を強力に推進する一方、穏健派は共和党への統一戦線を乱し、選挙で不利に働く可能性があると懸念を強めています。この論争は特にメイン、イリノイ、ミネソタ、ミシガンといった激戦州で顕著になっています。
背景:二つの医療改革案
- メディケア・フォー・オール (Medicare for All): 政府が資金を提供する単一支払者制度で、全ての米国民に医療保険を提供する構想。バーニー・サンダース上院議員が提唱し、進歩派の象徴的な政策となっています。
- パブリック・オプション (Public Option): 現行の「医療費負担適正化法(ACA)」の枠組みの中で、民間保険と競合する政府提供の公的保険プランを追加する案。穏健派が支持することが多いアプローチです。
進歩派の攻勢:「大胆な変革」を掲げる候補者たち
進歩派の候補者たちは、「メディケア・フォー・オール(MFA)」を公約の核心に据え、ライバルとの差別化を図っています。彼らは、有権者が現状の医療費高騰に不満を抱いており、大胆な変革を求めていると主張します。
- メイン州:グラハム・プラットナー氏は、MFAを自身の綱領の「中核部分」と位置づけています。同氏は、集会でこの政策に言及すると「最も熱狂的な」反応が得られると語っています。
- ミネソタ州:ペギー・フラナガン副知事は、MFAが予備選の「決定的な違い」になると断言。「私がMFAの支持者だと言うと、都市部でも郊外でも、会場は沸き立ちます」と、有権者の強い支持を強調しました。
- ミシガン州:医師であり、『メディケア・フォー・オール:市民ガイド』の著者でもあるアブドゥル・エルサイード氏は、この政策を自身の看板政策としています。
「これこそ我々が目指すべき方向です。この争点を中心に、勝利のための連合を築くことができます」
進歩派は、プラミラ・ジャヤパル下院議員の政治活動委員会が依頼した最近の調査結果を根拠に挙げています。ポリティコが最初に報じたこの調査によると、民主党支持者の90%、無党派層の過半数、さらに共和党支持者の5人に1人が「政府提供のシステム」を支持していることが示されました。
穏健派の懸念:「政治的命取り」になりかねないリスク
一方で、より穏健な民主党員は、この動きが党の結束を損なうことを危惧しています。彼らの当面の最優先事項は、年末に失効する「医療費負担適正化法(ACA、通称オバマケア)」の補助金を延長することです。この補助金がなければ、何百万人ものアメリカ人の保険料が大幅に高騰します。
「我々には『これらの税額控除を失効させるな』という単一のメッセージがある。共和党を追い詰めているのです。今、『MFAが必要だ』と持ち出すのは正しい戦略だとは思えません。むしろ有害でしょう」
穏健派は、有権者が現状の保険を失うことを望んでいないというデータも指摘します。NBCニュースの世論調査では、民間・公的を問わず、アメリカ人の82%が自身の保険プランに満足していると回答しました。彼らは、MFAが共和党に「民主党は社会主義者だ」という攻撃の格好の材料を与え、「政治的な命取りになりかねない」と警告しています。
民主党戦略家のアダム・ジェントルソン氏は、「アメリカ国民は、現行システムを好んでいないにもかかわらず、一気に完全な政府運営に移行することに根深い懐疑心を抱いている。この点を我々は受け入れなければならない」と分析しています。
PRISM Insight: 民主党の「魂」を巡る闘争
この対立は、単なる医療政策論争にとどまりません。これは、バイデン政権下で穏健路線に傾いた民主党の「魂」と将来の方向性を巡る内部闘争です。バーニー・サンダース氏が大統領選で主流にしたMFAは、現状打破を求める党の基盤にとって依然として強力なスローガンです。
進歩派は、短期的なACA補助金の延長と、長期的な目標としてのMFA推進は両立すると主張します。しかし、この内部の路線対立が、有権者を惹きつける強力なエネルギー源となるのか、それとも共和党に付け入る隙を与える分裂要因となるのか。来年の予備選挙の結果は、党の未来を占う重要な指標となるでしょう。
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